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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

悪くない味

鍋が恋しくなってくる寒さが当たり前のように到来する。スーパーでは当たり前のように鍋用のパウチ式の各種スープが並び始める。そしてやはり僕はごま豆乳を選ぶ。


多分どの街でも似たような光景があるのだと思う。最近では特に。SNSなどで窺い知れる人々の生活はそれほど大きくは変わらない。『大体』は同じ事が関心事で注目が集まっているものに自然に意識が向かい、みんなもそうしてるんだなと思いながら鍋をつついている。


「こんだけ置いてあるのはやっぱり売れるからなんだろうな」



鍋文化に、或いは小売店の上手な商売に少し呆れ気味に感心しつつ放り込む具材を探す。豆腐はマストであとは野菜多めに。


<やっぱり日本中で売れてるんだろうな>


そんな事を考えていると少し不思議な気持ちになる。何かがあるとしてもこの町だからという事でもない。僕が地元に思い入れがあったとしても、違う場所に住む人は何らかの意味でそこに愛着を感じているだろうしその人にとって特別な場所になってゆく。時々覚える特別な情感もこの町だから生じるというわけではないのかも知れない。


「…」


春菊を取る手が一瞬止まる。


<これで良いのか?>


いい筈である。悩む事なんてない。いい筈なのに、「良い」と言ってくれる存在は自分の中には見当たらない。どこか誰かに確認したくなるような、けれど確認しようのないそんな迷いも時々ある。何に迷っているのかさえ正確には分らないのかも知れない。自分で何となく「これで良い」と思えればそれで良しとするしかない。


特に変わり映えがするというわけではないが、何となくしっくりきた方の春菊を選んでカゴに入れる。



セルフレジで会計し終わってから店を出る。雪こそないものの、冷たい風が身に堪えて思わず震えた。いそいそと車に乗り込んでエンジンを掛ける。そこからの挙動はもう慣れたもので、ほとんど何も意識しないままに駐車場の裏から細い道を選んで公道に出る。ラジオから流れる男女のパーソナリティーの漫才のような掛け合いに時々頷いたりしながらなるべく一定のスピードを心掛けて走らせていた。



何があったというわけではなかった。何かがあるほうが面倒くさいと思う性格だから、その方が良い。普段ならそう思う。でも午前中にとある邦画を見て、少しくらい何かがあっても良いかもなとその日は思った。ただそれだけである。



この町も、あの舞台と大きくは変わらないのだから。



それでもこの町は秋が過ぎれば例年あとは静まってしまう。それはまるで次の時の為に何かを蓄えるようでもあり、ある意味では本来の姿なのかも知れない。そこで何かを探すという事は、ひどく低い確率の抽選会をしているようなもので時々馬鹿らしく思えて家に籠って本当に望んでいるわけではないけれど、気晴らしができる話題に目を向けてしまう。



今も帰宅してテレビを点けたところだ。土曜日だけあってそれなりに面白そうな番組もある。



賢明な在り方だなと思う。この町にしては見どころあるものも、「この町にしては」という修飾語を除いてしまえば余所と比べて格別すぐれているわけではないことくらい承知している。それでも見慣れた駅前が少しでもライトアップされた様を実際に眺めれば何か不思議と特別な気分になったりする。



この国のどこか知らない町を知名度があるタレントが歩いている。少し前に収録されたものがこちらでは遅れて放映されているらしく、まだ暖かそうな雰囲気がある。



夕食までの時間しばらくそれを見ていようかなと思った。するとどちらかといえばうらびれた通りを歩いていた男性のタレントが感じ入った様子で何気なく呟いた。


『なんか、こういう静かなところも趣があるというのか』


僕がそれを聴きとった感じでは無理に繕って言っているようには聞こえなかった。本当にそう思えて言ったというそんな感じだった。


「そういう風に感じる人もいるんだな」


自然に声が出ていた。なぜだろう、その時僕は妙にその言葉が心に残った。




数日後、僕は仕事上の事務手続きの為に午後から休みを貰い役所に出向いていた。窓口で申請するとさほど時間が掛からずに済んでしまったので少し空いた時間ができた。ほんの気紛れで近くを歩いてみようと思った。



ここ数日に比べると外は過ごし易い暖かさで、平日の昼間という事もあるけれど辺りには穏やかな雰囲気が漂っていた。地元の事はよく知っているつもりだったけれど、実際に道を歩いてみると印象が違う。



「でも趣はそんなに感じないかもな…」



あのタレントのようには感じれない自分が本当なのだと思う。けれどそれとは別なものが僕の中にはあるような気がする。その時、それが何なのか確かめたくてしばらく歩き続けた。ふとある建物の前で僕は足を停めた。


「ああそういえばここ、あいつが話してた」


それは「有限会社〇〇」というごく普通の会社の建物だった。今も経営されているのかは外からでは分らないけれど、何故ここが目に留まったのかといえば中学時代に仲の良かった同級生が、


『『有限会社〇〇』の傍にある自販機に…』


とまさにここにある自販機について頻繁に口にしていたのを覚えていたからである。何でその自販機なのかと言えばその友人の学校からの帰り道にあるその自販機にその友人が好きなマイナーな炭酸飲料水があったかららしい。今でもその友人が『ゆうげんがいしゃ』の部分を強調する得意気な声が蘇ってくるようである。



見るとその自販機にそれらしい飲料があった。試しに買ってみても良いなと思ったので財布から小銭を取り出す。ボタンを押して出てきた缶ジュースの味は妙に懐かしく、そして妙に甘かった。そう感じるのは舌が大人のものになってしまったからだろうし、もともと友人が甘党だったからかも知れない。


<悪くはないな>


そう思った時、僕は先ほど感じていた僕の中にあるものの正体がなんとなく分ったような気がした。一言で表現するならそれは…



知らないのに知っている



という事ではないだろうか。この町に住んでて知らず知らずに与えられていた情報は普段は意識しなくても確かに自分に息づいている。それがこの道を、何かそういう印象にさせるのだろう。


「悪くないな」


そう呟いてジュースを片手に道を引き返す。帰りにまた「ごま豆乳」を買おうと心に決めながら。
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二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
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