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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

本棚と先輩

『いいか、目は口ほどに物を言うって名言と一緒で、本棚はその持ち主の性格から考え方、抱えている悩みまでをこれでもかっていう位に投影するものなんだ』

この台詞は、僕の職場の先輩がある日の昼休みにこれ見よがしに力説したものだ。
時間にして約30分。
なぜこのような話題に辿り着いたのか、今となっては真相は到底藪の中であるのだが、とにもかくにも先輩の自説はその30分を目安にボルテージに達した。
どこか強引な解釈であるような気もするし、それでいて腑に落ちるような気もするのが正直なところだ。
その先輩は微妙な反応をする僕に業を煮やしたのか、更に説明を続けた。

『例えばさ、ある人の本棚に今結構流行ってる「簡単に10キロ痩せられる」的な本があったとするだろ?これは、「私は太っていて、痩せたくて痩せたくて悩んでいます!」って言ってるようなもんだ。違うか?』

『…そうですね、そういうことになりますねぇ。』

『まだあるぜ。「1年間で100万円貯める」とかいう本はだな…』

『…それは「私には貯金がありません」って言ってるようなもんだと?』

『そう、そういうことだよ。お前、吞み込みが早いじゃないか。さすが自己紹介で「趣味は読書です」なんてベタなこと言うだけあるな!まぁ、とにかくさ、本棚のラインナップを見ると、大体持ち主がどんな奴か分かってしまうのよ、うん。』

他人の本棚を見る機会があまり無いのが残念であるが、確かに先輩の言う通りなのかもしれない。
話を聞いているうちに僕も少しずつそう感じるようになった。
そして、今僕の目の前には自分の本棚が立っていて、棚に住居している本達が己の行く末を案じているのか普段は味気ないタイトル部分を光らせるようにアピール合戦を始めている。ような気がする。
そう、僕は今から本棚を整理する予定だ。

僕は几帳面な男。のつもりだった。
しかし、いざ本棚を整理しようとしてそのラインナップを眺めてみると、どうやらそれは自分の思い込み且つ大いなる勘違いであったことに気付いた。
図書館並みに作者の五十音順だったり分類毎に本を並べている…とはいかなくても、それなりに整理された本棚を築き上げているものとばかり思っていたのに、実態は大きく違ったものだった。
例えば僕の本棚には、他の社会人同様ビジネス関係の自己啓発本が何冊か存在している。
これについては特段どうということはない。
まぁ、先輩に言わせるならば、これも「私は自己啓発ができておらず悩んでいます」と言っているようなものなのだろうが、それはこの際気にしないことにする。
問題はその他だ。
何回か読み込んだ「バカでもよく分かる、決算書の読み方!」という本の脇には、タイトルは差し控えさせて頂くがライトノベルが大きな顔をして、実に本棚の約8割をも占有しているではないか。

ちなみに僕は何もライトノベルを蔑んでこう言っているのではない。
僕自身、ライトノベルの作り出すあの雰囲気(例えば挿絵が多めだったり、最近のトレンドなのか異様に長いタイトルに妙に親近感を持ってしまったり、何よりマンガ・ゲーム・アニメ・小説のメディアミックスという独特の形態に対し深く敬意を示すものである)をこよなく愛しているし、絶望しかない現実三次元に対する二次元への精一杯の羨望、または現実逃避なのである。

家人に示しがつかない…ということもないではないが、僕がこの愛すべきライトノベルを泣く泣く整理するに至ったのにはのっぴきならない理由がある。
それは他人の本棚を評し、その持ち主の人格・性格・性癖までをも鑑定してしまう例の先輩が我が家を訪れることになってしまったからだ。
僕の本棚の今の状態を目にすれば、先輩にどのような評価を下されるのか考えただけでも恐ろしい。
あの日、力説を終えた先輩は僕にこう言った。

『趣味が読書とは感心感心。うちの会社にはこれまでそんな奴がいなかった。いくら本の話題を振っても、誰も話題に付いてきてくれないところに、お前がやってきた。お前って普段どんな本読んでるの?』

読者諸君、こう問われた時の僕の心中を察してくれ給え。
確かにライトノベルだろうが、近代文学だろうが、グラビアアイドルのセクシー写真集だろうが、子供が読む絵本だろうが、『本を読む』という行為自体は同じだ。
だから『趣味は読書です』と自己紹介で言ったことは決してウソを付いたわけではないのだが、顔や雰囲気が近代文学で出来ているようなあの先輩に対し、どうして『ライトノベルが一番大好きです!』などと告白できようか。
だから、僕は咄嗟にウソを付いた。

『いや、うちなんて大した本は無いですよ、部屋も散らかってますし…先輩に来てもらえるような状況じゃないです…』

しかし、頭髪の約7割が芥川龍之介のそれと同じ成分で出来ているような先輩は一向に引く気配を見せない。

『部屋を綺麗にしている奴は揃ってそんなことをいうものさ。なに、俺の部屋も同じようなものだ。気にするな。いつ都合がいいんだ?そこまで自分の部屋を汚いと卑下するのであれば、優しい先輩で通っている俺だ、片づける猶予を与えてやるよ、ん?』

こちらは一言たりとも住居への入室を承諾していないのに、洒落っ気のつもりなのか目が良い癖に度が入っていない中島敦のような眼鏡をかけたその先輩はいつの間にか己の立場を逆転させている。部屋にお邪魔する側から、部屋に訪問してやる側に。

先輩のパワハラ砲という今世紀最大の人類最凶兵器に、僕という自称・函谷関は呆気なく陥落した。
今日から遡ること一週間前のことであり、先輩が我が家を訪れるのは明日まで迫ってきているのだが、作業内容は一向に進む気配を見せない。生まれてこのかた僕は本を買うことはあっても、整理…つまり捨てたり古本屋へ売るといったようなことをしたことがなかったものだから、擬人化とはまた違うものだけれども、有り体に言ってしまえば愛着が湧いてしまっているのだ。
あの本もこの本も僕が自分で選び、大事に読み切ったものばかりだ。
読書を趣味としない人からすればこの気持ちは分からないのかもしれないけれど、多感な時期に彼らに乗せられた文字をこの目で追い…感じることで、嫌なことや辛いことを乗り越えることができたのは、本という友人がいたからなので、本は血肉になる…とはよく言ったものだと思う。
そうしみじみ感じて、僕はおもむろに棚から一冊の本を手に取る。
僕が買い集めたライトノベルの中で、最も思い出深いものだ。
この本だけは捨てたり他の人の手に渡すことは決してできない。

一夜明けた僕は決心を固めていた。結局本の整理は途中で止めた。
いや、途中で止めたというと語弊がある。本棚は元のままだ。
ライトノベルの何が恥ずかしいというのだ。本は本だ。
先輩も言っていたではないか、本棚は持ち主を投影するものだと。
で、あれなこの本棚が僕そのものなのだから、先輩にはありのままをお見せしよう。
俗にいうヤケクソである。やがて先輩が訪れた。

予想に反して、先輩は本棚を見ても特に僕を蔑むようなこともなかった。
全体を一通り見て、おもむろに僕に尋ねる。
『お前…よくこれだけ…ライトノベル集めたよなぁ。面白いのか?』
『面白いですよ。…いや、ちょっと違いますね。』
『…違う?』
僕は昨日本棚から取り出したお気に入りの一冊を手に取りながら答える。
『はい、面白いものもあります。でもなんていうか、それだけじゃなくて…これは僕が一番気に入っているライトノベルの作品なんですけど、本当にこの本には学生時代に救われたんですよ。悩んでる時に読めば慰めてくれましたし、時にはどうしたらいいのかも教えてくれる存在でした。なんて言っていいか全然整理できてないですけど…。』
『…ふーん、そんなもんかね…』
『先輩が読むような高尚な本とかに比べれば、文学とは言い切れない部分もあるかもしれないですけどね。すみません、俺はこういう本ばっかり読んで、趣味は読書です的なこと言っちゃってました。』
『まぁ文学ではないな。ただ、お前の言っていることは違うぞ。ライトノベルは文学っていうジャンルではなくて、なんていうか…文学とは別の…もうそれこそ”ライトノベル”というジャンルを確立させていると俺は思っている。』
僕は先輩の発したその言葉を俄かには信じられなかった。
個人的なイメージでは、先輩のような文学人はライトノベルとは対極にいるような存在だったからだ。
『今思えばさ、本を読むことについて良いも悪いも無いと思うんだよな。知ってるか?今は大学生が4年間で本を1冊も読まない時代だぜ?そんな時代なんだったら、雑誌でも何でも読めば、それで読書ってことにしていいんじゃねぇか?ていうよりも、ただ漫然と本を読んでいるんじゃなくて、お前がちゃんとした思いを持って本を、ライトノベルを読んでくれていることが嬉しいよ、俺は。』
『なんだか、関係者みたいな言い方ですねぇ』
『…関係者…まぁ、当たらずも遠からずってやつだな。』
『はい?だって先輩って俺と一緒の職場で、出版関係とは無縁の仕事してるじゃないですか。』
『…ん~、ずっと秘密にしておこうと思ってたんだけど、俺さぁ読書好きが高じて昔一冊だけ本を書いたことがあるんだよ。しかもライトノベルを。ちなみにお前が大切にしてくれてるその本だけどな…実は俺が書いたものだ。そこまでお前の役に立ててたなんて、正直ホントに嬉しいわ。』

『…は?』
僕の手に握られているライトノベル。
タイトル:『ばからしきすばらしき日々』
作者:村雨ユウスケ
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