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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

フレミングに宛てて ⑥

その日僕は蝉の鳴く声で目覚めました。この辺りでは梅雨もまだ明けきらないという話ですが一方で夏は着実にやってきているなと実感したり。その音と一体化したような気持ちでしばし布団の上で仰向けになっていると、<そろそろ準備しなくちゃな>という考えが自然と浮かんできました。


この日が菅野くんに『都合のつく日』として連絡していたバイトが休みの日でした。約束では午前中に公園で会うようにしていたのですが、考えてみると菅野くんは大学に通っているという事でその辺りの条件はどうなっているのだろうと疑問に感じました。スマホで少しググってみて丁度今が大学生の夏休みに入った頃だという情報を得てなんとなく納得。大学生の夏休みは長いらしく、仮に菅野くんが友人を探すということであれば色々と都合のいい時期だという事も分かりました。


「なるほどなぁ。夏休みかぁ…」


僕のような生活では休みとバイトの境界がどこか曖昧で、ここ2年間ほど季節感もなく同じような生活をしているので少しは夏らしいことをしてみてもいいのかなと思ったりしました。適当に朝食を済ませ、時間になったので公園に移動。すると既に菅野くんの車が近くに停めてあるのが分かりました。急いで近づいて運転席に座っている菅野くんに窓越しに、


「お待たせ」


と言ったところ愛嬌のある笑顔を浮かべ左手で助手席を指さしています。乗れと言う事でしょう。誘導されるまま助手席に乗り込んでもう一度挨拶しました。


「鈴木さん、今日は相談に乗ってもらいたい事があるんだけど、とりあえず今から市役所行きます」


とはきはきと述べる菅野くん。とりあえず「ええ」と答えるとすぐ車が発車しました。途中、「市役所ってこっちのほうでしたよね」という確認がありましたが僕も年に何度か事務手続きで訪れている場所なので自然にナビを買って出ました。ほんの5分程で市役所に到着し、広い駐車場に車を停めてそこから建物の中に移動します。話を聞かなくても「友人の雅仁くんが公園のボランティアをしていた」という事に関係があるのだと思ったのでそのまま着いてゆきます。中に入ってホールのところで一旦立ち止まった菅野くんがこう訊きます。


「ボランティアの関係ってどこで訊けばいいんですかね?」


当然僕もよく知らないので咄嗟に答えに窮したのを見て「やっぱり直接役所の人に訊いた方がいいですよね」と改めたようです。奥に行って役所の人に代わる代わる話を聞いて『都市計画課公園緑地係』という部署があるという事を知り、担当の人を呼び出してもらいました。


「えっと、ちょっとお尋ねしたいのですが…」


と菅野くんが詳しい事情を説明して何かを聞きだそうとしています。『失踪』という部分はだいぶ柔らかい表現で述べていましたが事情が事情なので担当者は神妙な顔をしています。聞き終わってから担当者は「個人情報なのでお答えできないこともありますが」と断ってから答えられる範囲の事実関係を確認しに行きました。


「お待たせしました」


そう言いながらしばらくして戻ってきた担当者は公園のボランティアが去年の8月まで2名いたという事、そして今年は3月までは1名だったのが4月にその人が辞めて今はボランティアが居ないという事を教えてくれました。名前は出てませんが小林さんが言った事と考え合わせると今年の3月まで1人だったというボランティアは雅仁くんで、去年の2名というのは小林さんのおじいさんの事だろうと推論されました。担当者はその後に、


「もし何かあるようでしたら…」


と雅仁くんの事が気になっている様子。慌てて僕は「事件性はないようですし、家族の人もその…」と説明すると少し納得したようです。これで一応事実は確かめられたのですが、何か少し物足りないようにも感じます。すると同じことを思ったのか菅野くんがこんな風に訊いてみました。


「4月で辞めたボランティアの人が辞める時になにか理由を話してませんか?」


これはぎりぎりの質問です。個人情報に属しているようにも思えますが、ボランティアをする場合に参考になる情報ですので一概にそうとも言い切れないのです。担当者もその辺りの事を了解した上で、


「そうですね…辞める際に直接役所に来ていただいたのですが、『少し都合が悪くなった』という感じだったかなと思います」


と慎重に言葉を選んで答えました。それは微妙なところですが、仮にその頃からN市を出る決心をしていたのだとすれば準備を始めたのもその頃なのだろうと考えることも出来ます。市役所を出る際に菅野くんと意見を確認し合い、そんな風に納得していました。


「これで市役所の用事は終わったんだね。あとは相談でしょ?」


再び乗り込んだ車の中で僕は運転席の菅野くんに訊ねます。


「ええ、何か丁度良い場所ってこの辺りにありますかね?」


その問いに僕はこの市内で唯一とも言えるファミレスを挙げました。そこなら長時間居座っても大丈夫なところで、昼食を採るのにも丁度良い場所です。「じゃあそこで」と菅野くんは車を出し、先ほど来た道を反対に向かい10分ほどで目的地に到着します。そこに建ってから大分日が経ったファミレスは平日なのでそれほど混んでいません。


「もちろん俺おごりますよ」


また愛嬌のある笑顔を浮かべて言ってくれます。


「あ、ありがとう」


奥の方の禁煙席に座りメニューを見ましたがまだ昼食には早いのでドリンクを注文する事にしました。ドリンクを待つ間に自然と会話が始まります。


「さっそく本題なんですが、まあ雅仁の事で俺この夏にちょっと時間かけて探そうと思ってるんです」


「なるほど…たしか今夏休みなんでしょ。大学って」


「ええ10月までは時間があるんで、ダメもとでちょっと色々周りたいかなって」


「大変だよね…手掛かりがないから…」


僕が特に考えずに言った「手掛かり」という言葉に菅野くんは反応します。


「実はない事も無いんです。雅仁の夢がラッパーでしたから」


「ん?ラッパー?」


聞き違いでなければあのラップをする人という意味の「ラッパー」です。菅野くんは頷いて、


「高校時代から練習してました。俺もあまりチャラいのは得意じゃないんですが、雅仁のはしっかり韻を踏むのを意識して熱心にプロのやつを研究してましたね」


「え…そうなんだ…」


僕はそのジャンルを良く知らないのもあって何とも答えようがないのですが、肝心なのは雅仁くんが今何処にいるかなのでなにか心当たりがあるのかなと思いました。


「雅仁は多分夢を追ったんだと思います。上京したとは思うんですが、ライブハウスとかに行けばもしかしたら見つけられるのかも…」


僕はそこで絶句しかけました。確かに間違っては居ないけれど探し出せる確率はそれでは余りに低いように感じたのです。菅野くんは最初から行動がある人だとは思っていましたが、何か目的の事となると手段が時々怪しくなってくる性格なのかも知れないと感じられます。


「う…ん。そうかも知れないけど、僕はおすすめしないよ。雅仁くんを心配する気持ちは分かるけど、それだったら本人からの連絡を待っていた方が良いと思う」


僕は慎重に答えました。菅野くんは静かに頷いてしばらく無言でどこかを見つめていました。丁度その時にドリンクが運ばれてきました。菅野くんはそれを少し口に含んで言います。


「そうですね。確かにそういう可能性の方が高いかも知れません。やっぱり俺最近判断がおかしくなってるかも知れません」


この言葉からは菅野くんに自覚があるという事が分って僕は少し安心しました。続けて僕はこう言いました。


「思うんだけどさ、今の時代だとやっぱりネットとかの方が情報があるんじゃないかな?最近新しく出来たツイッターのアカウントとか調べていけば可能性があるような気がする」


どちらかというとネットの依存している僕の意見なので一般的かどうかは分かりませんが、ネットならば探し回ったとしてもそれほど労力にはなりませんし、なんなら手伝う事も出来ると思うのです。そう説明すると、


「ああ、確かに…でもいいんですか、手伝ってもらっちゃって…」


「いいよ。そういうの得意だし」


実際の相談はこれくらいだったようですが、どちらかというとその後は菅野くんの個人的な事を話してもらったり、改まって自己紹介をする時間になりました。考えてみると雅仁くんの事はともかくお互いの事はあまりよく知らないので、趣味を話しあったりして充実した時間になりました。


「その『フレミングに宛てて』ってのが完成したら聴かせてもらっていいですか?」


「いいよ!っていうか誰かに聴いてもらって悪いところ直したかったんだよね」


DTMerだという事も話したところこんな風になかなかいい反応。ちなみに菅野くんは最近発売された世間で有名なスマホのゲームにハマっているらしく、僕も試しにインストールするのもいいのかなと思いました。
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