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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

フレミングに宛てて ⑤

「鈴木さん、なんかボーとしてません?」

コンビニでバイトしている時、一緒にシフトに入っていた加藤さんから少し注意を受けました。加藤さんは少しばかり年上の女性でこの時間のシフトの中心的存在なのですが店長からの信頼も厚く、他のアルバイトの人にも的確にアドバイスを出来る有能な人です。彼女に指摘されて、昨日のメールの事がやっぱり気になっているのかなと思いました。菅野くんからは『相談』とだけしか告げられていないので重要な事かも知れないと想像してしまって、それが態度にも現れてしまっていたようです。


「ええ、ちょっと予定が出来てしまって、すみません…」


素直に謝ると、


「いえ、何となくボーっとしているかなって思っただけなので珍しいなって思って」


というフォローがありました。そういえば僕は仕事の間は基本的に作業だけに集中するタイプなので自分にとっても珍しい事なのだと思えました。それには理由があります。


「なんか知人に相談に乗ってもらえないかって頼まれまして、そういうのあんまり経験してないので色々考えてしまったみたいです」


人付き合いは人並みにしていると思いますが、どちらかというと友人に相談に乗ってもらうというような事の方が多いので自分が相談の依頼を受けるというのは地味に始めてかも知れなかったのです。


「そうか。なるほどね…」


レジの前に立っていたのであまり会話をしてもいけなかったのでこの辺りでそれぞれ作業に戻ったのですが、そこからは気持ちを切り替えて意識的に作業に集中する事にしました。お客もそれほど来ない日だったので掃除が捗って、レジは加藤さんに任せていました。引き継ぎの人がやって来て一緒に上がる時間になったので帰る支度をしていると、

「お疲れさま、そういえばさっきの話だけど」


と加藤さんが話しかけてくれました。


「さっきの事ですか?」


「そう、相談がどうのって話。そういうのはねそんなに悩まなくて良いと思うよ?」


自分にとって意外な言葉だったので「そうなんですか?」と訊いてしまいました。すると、


「うん。だって、相談っていうのは鈴木君の意見を求めているって事だし、相談する方も本来は自分が考えるべき事だって分って頼んでるはずだし」


「なるほど~」


思わず感嘆の声を洩らしてしまう僕。言われてみればその通りで、おそらく菅野くんが相談したい事は彼の友人についての事だし、それについては相談の内容を聞かない限り答えようがないし、もしその内容だとするならそもそも僕が的確なアドバイスをする方が難しいのです。


「ありがとうございます。加藤さんには仕事でもアドバイスしてもらっちゃって…」


「いいのよ。こういうのは年の功だから。哀しいけどね…」


時々自分の年齢を気にするような、それをネタにするような発言をする加藤さんですが頼りになる存在だと思いました。徒歩で帰れる自宅に戻る途中、この頃何かと縁があるようなあの公園に立ち寄ってみる事にしました。相変わらず平日だと人気が無くて、これから夏本番になると水場がないこの公園は余計に人が来なさそうだなと思いましたが、注意して見てみると端の方の花壇の整備は行き届いていてやっぱり誰かの手が加わっているのだなと実感。人が来ないという理由はあるにせよ園内にはゴミも見当たらないし、雑草が多いという事を除けば比較的小奇麗な公園だと思います。


<ボランティアなんてあったんだな…>


一番身近とも言える場所も市内の誰かが知らぬ間に綺麗にしているという事実はちょっと想像していなかった事です。菅野くんの友人は何を思ってボランティアをしようと思ったのか、分かるわけではありませんが頷けなくもないような気がします。僕は子供の頃、近所の友達や少し年上の人とここまで自転車で乗りつけて、ボールを蹴って遊んだりしました。その仲間たちの殆どは地元を去ったでしょうし、幾人かは地元で就職しているのかも知れません。疎遠になるというほどよく知っている人達ばかりではありませんが大人になるという事がどういう事なのか分かりかけてきたこの頃では、ああいう時間がどれほど大事だったか振り返りたくなります。



しみじみとした気分に浸りながら帰宅すると、庭でガーデニングをしていた母が「お帰り」と迎えてくれました。自分が地元に残って今のところバイトで生活しているという事を特に文句を言うわけでもなく「今はそういう生き方もあるから」と見守ってくれている肉親の言葉は有難いものですが、友人とは違ってはっきりと『やりたい事』が見つからないままで良いのかと迷う事もあります。それこそ相談に乗って欲しいと思っているのは自分なのかも知れないと思ったり。と言っても、全然何も『やりたい事』がないというわけでもないのです。ただ自信がまるでないし、ただ趣味として続けられればいいなと思っている事で。



僕は日課のように自室でパソコンを立ち上げ、そこそこのサイトを巡って新着の情報を確認するとソフトを立ち上げてこの間の作業の続きを始めます。それはパソコンで音楽を編集するDTMです。少し前から流行になっているものですが、音声合成ソフトで歌わせるような曲は作るつもりがなく、インストゥルメンタルで作曲して打ち込むという事をやっています。ただこの界隈はネットで活動するにしてもマイナーなジャンルで、投稿したとしたとしても爆発的な再生数は稼げないし、プロでデビューできるのも限られた才能のある人だけという望が薄いものです。だからこそこれは『やりたい事』ではあるものの仕事には繋がらないし、そもそも僕はまだネットで投稿した事すらない素人に毛が生えたような状態です。今は自分が良いと思う音楽を聴き漁って、時々理論を勉強しながら試行錯誤で何とか数曲できた程度なので誇れるものでもありません。その割にはこれを続けようと思うとかなりの時間を割かなければならず、今のところ自己満足に留まっているような気もします。バイト代でそこそこ良いソフトや音源を手に入れられているものの、活かし切れていないというのは宝の持ち腐れでしょうか。



『虹野スミレ』さんこと小林さんのようにクリエイターに対しては他のジャンルであっても尊敬するところは多いです。自分の作業が行き詰った時モチベーションが高いクリエイターの質の高い作品を見ると純粋に作品を見る喜びの他にも『自分も頑張らなくっちゃ』と思えたりするもので、そういう事については手の届かないレベルの曲をアップしている人を知る度に自信を無くすという事が少ないと言えば少ないので音楽以外の方が良いのかも知れません。それに背景がしっかり描かれた情感あふれるイラストを見ているとそこから音楽のイメージが浮かんできたりするので、いつの間にかネットでイラストを見るのは日課になっていました。



今日の作業は主旋律を考える所からでしたが出来たところまでを聞いてみると何かしっくりこないというか、もう一工夫あっても良いなという感覚です。とりあえず出来たところまでで仮のタイトルを決めようと思いました。


「う~ん…これも難しいよなぁ…」


勿論仮で良いのですから迷ってもしょうがないのですが、なかなか身近なところでは良い言葉が見つからないのでちょっと意外なところからタイトルを考えればいいのかなと思い適当に言葉を羅列していった所『フレミング』という言葉が浮かんで、


「フレミング…って何だっけ?」


と自分でも思い出せていないまま、とりあえず人の名前っぽいなと感じて「フレミングに宛てて」というタイトルに決定。念のため検索してみると「フレミング左手の法則」と「フレミング右手の法則」が出てきました。物理の用語という事を思い出しましたが何となく意味深なタイトルになるなと思いながら夕飯の支度の出来たダイニングに移動しました。
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