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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

ある未来の話 ②

あの部室の異様な体験と印象を引きずったまま帰宅した私は仕事が休みで居間で本を読んでいた母に平静を装いながら「ただいま」と言った。母は普段通りに「お帰り」と声を掛けてくれたので何となく気持ちが落ち着いたような気がした。


「あれは一体何だったんだろう…」


それから自室で一息ついた時に思わずこんな言葉が漏れた。と言っても学くんの説明が本当ならば何だったのかは分かっているのでむしろあの体験が現実の事なのか疑っているような言葉だ。冷静に考えられるようにと机に突っ伏して「う~ん」と唸る。


<誰かに相談するべきだろうか?じゃあ誰に…>


というような事が頭に浮かんだ時、相談できそうな友達が誰だろうなと絞っていたら花恋の事が思い浮かんだ。もとはといえば花恋が学くんにアプローチする為の手伝いだったわけで、こうなった責任の一部は彼女にあるように思えた。


「でもなぁ…」


だからといって花恋が私と同じようにあの体験が出来るのかどうかは分からないし、何となくだけれど友達をわけの分からない人に関わらせたくないような気もする。と、その辺りまで考えたところで私はちょっと思いついて真新しいノートを抽斗から一冊取り出した。


「え~っと、分っている事は…」


ちょっと前から自分の特技を活かして日記を書き始めた私だったけど、同じようにして今日体験した事とか私が見たものとか学くんが言った事などをまとめてみれば少しスッキリするのではないかと思って書きだしてみる事にしたのだ。あとで何かがあるかも知れないと思ってなるべく詳しくを心がけていたらいつの間にか一時間程経過してしまっていて、その時下の階で音がして弟が帰宅したのが分った。


「あ…そうだ、いい事思いついた」


意外と思われるかもしれないけれど私は今書いたばかりのノートを携えて今しがた入室する音がした弟の部屋に駆けこんだ。


「ちょっといいかな?」


部活帰りでジャージ姿で床に座っていた弟に声を掛けると、


「いいけど、ちょっと着替えていい?」


と言われた。それもそうだなと思って、一旦部屋を出る。少しして「いいよ」と中から声がしたので再び入室した。


「なんかあったの?」


弟にしては珍しく心配するような目を私に向けている。あまり深刻にすると話がややこしくなりそうだったからなるべくおどけてみせて、


「あんたほら、最近ライトノベルとか読んでるでしょ?ファンタジーっぽいの」


と話し易い所から語りはじめる。


「うん。それで?」


自分が好きな話題だからなのか表情からも喰い付きが良いのが見て取れた。こうなればしめたものだった。


「実はさ私じゃないんだけど作家みたいなのを目指してる友達がね、ファンタジーの設定を考えたの」


「へぇ~すごいね!聞きたいな」


「そうそう。喜ぶかなと思って聞いてきたの。で、参考にしたいから意見も欲しいの」


「ああ、そういうの俺好きだよ!ってか、実は俺も最近ちょっとノートとかに…いや…見せないけどね」


少し中二が顔を覗かせている弟。私の念頭にあったのも弟のこういう部分。私はノートを見ながら、ちょっと慣れていない感じで今日あった事をぼかしながら説明した。


「ふんふん、それでそれで」


興味があるのか最後まで真剣に聞いてくれた。


「へぇ~凄いなぁ。まあそれだけだとちょっと弱いけど悪役とか出せばファンタジーになるよ、それ」


最後にはこんな風に太鼓判を押してくれた。まさか彼はこれが『現実にあった事』だとは思うまい。でもこれだけ熱心に考えてくれるなら、もしかすると私が取るべき選択もそこから見えてくるような気がした。私は弟に「じゃあこの主人公はさ、その能力をもった人とどう接するべきかな?」と具体的な質問をぶつけてみる。


「う~ん…難しいよな。本人は怪しいものじゃないって言っても、未来が見えるならそうなる未来も見えてたかも知れないしなぁ…」


「あ…そういえば…」


弟の先入観のない視点から、私は取り逃していた可能性を知った。厳密には未来の可能性がみえるのだけれど、起り易いのは『濃く見える』わけだから、もし私が来ることが起り易かった事だったらば知っていた可能性がある。けれど弟は神妙な顔をして、


「でも、それだったらそうなる未来を回避するように動いてたかもしれないし…なんか頭が混乱してくるけど、もしかしたら起り難いことでその人も見逃してたのかも知れないなぁ…じゃあ…」


「じゃあ?」


「…」


そこで弟は何かを考えたまま黙りこくってしまった。しばらくそうしていたと思ったら、


「わかんねぇ」


「へ?」


私は思わず訊き返した。


「いや、俺にも分んないよ。まあもし俺が主人公だったとしたら、作戦としては直接その能力者に近づくんじゃなくて、周辺から攻めるかもね」


「周辺から攻める?」


「つまり能力者の知り合いとか友達とか、なるべく普通そうな人から、何か気になる情報とかを引き出してくれば安全だってこと」


「なるほどね…!あんたこういうのはよく思いつくのね、すごい」


「一言余計だよ」


弟は苦笑したが褒められて満更でもない様子。私もこれで何か糸口がつかめたような気がして「ありがとう、じゃあ友達に伝えてみる」と言って自室に引き返した。そこからはまるで探偵物の漫画のように推理をするみたいにノートに様々な『可能性』を書き込んでいった。やってみると結構楽しくて熱中してしまったけれど、ふと冷静に返る。


「そういえば、もし学くんのいう事が本当なら100年後も今とそんなに変わらない世界になってる可能性の方が高いのよね…」


一番強いイメージだったごく普通の日常。それが既に分っているという事はある意味で先が分っているようなもので、私はどこか安心してしまった。


後でそれは本当はそういう事ではないと分ったのだけれど、私は満足して下に降りて父が帰ってきたので普段通り家族で夕食を食べ、そしてテレビを見てぐっすり眠った。
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