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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

フレミングに宛てて ③

案内されたのは仏壇以外は特に物の置いていない居間でした。少し珍しいかなと思ったのはテーブルにやや大きなPCがあった事くらいでしょうか。詳しくは知りませんがなにやらペンタブらしきものがあって、結構使用している感が出ていました。


「この家、今は私だけだから。適当に座ってて」


とは先ほどの女性の言葉。「今は」という部分は気になりましたが、その他にもこの辺りで一人暮らしというのも珍しいかなと感じました。内装は綺麗に感じますが殆どが畳の間といったところ。大分歴史を感じる造りで地元でずっと続いている家なのだという気がします。女性は奥の方に歩いていって何か準備している様子。湯を沸かす音が聞こえましたが、居間の座卓の方に腰掛けて待っているとお茶を出してくれました。


「あんまり人が来ないからよく分かんないんだけど、おじいちゃんがその写真の人が来たときはお茶出してたから」


その言葉に反応するように健君が訊きました。


「おじいちゃん?」


「うん、今は居ないけど。半年くらい前にね」


「そうでしたか」


初対面なのであまり深く訊ねられないけれど、半年くらい前までは存命だったという事だろう。


「時期はあってますね。ツイッターの投稿がちょうどその頃だから。もしかするとこの写真の後ろ姿の男の人って」


「うん、どれどれ?」


スマホを覗き込む女性。先ほどから少し違和感があるのはこの辺りの女性にしては言葉に訛りが少ないなという事ですが、フランクで物怖じしない態度も地元では珍しいタイプだなと思いました。


「あ、おじいちゃんだ。多分私その時、家の中にいたと思う」


「そうなんですか。じゃあ高橋とは話した事もあるんですか?」


あり得そうな事だと思いましたが女性は眉間にしわを寄せて、


「う~ん、あんまり話した事ないんだよね。今みたいにお茶は出したんだけど、おじいちゃんから聞いた話だと飲み友達だって言ってたよ」


と話しました。


「え、飲み友達ですか…」


すると健君も同じように眉間にしわをよせて何か考え始めたようですが、


「それでも接点が分んないなぁ…」


と言いました。確かに歳も大分離れている関係なので、どういう経緯で知り合ったのかが気になるところでした。


「あ、そういえば名乗るの忘れてたね。表札に『鈴木』ってあったでしょ?でも私鈴木姓じゃないの」


「え?そうなんですか」


意外な事実でしたがよく考えているうちに、


「ああ、お孫さんですもんね」


と思い直しました。女性は頷くと、


「こっちは母方のおじいちゃんで、私は小林っていうの。下の名前は春香」


「小林春香さんですね。僕は実は鈴木で下の名前は翔(かける)っていいます」


「俺は菅野健です」


それぞれ自己紹介が終わったところで小林さんが、


「お二人の関係は?」


と訊いてきたので若干戸惑ってしまいました。おそらく傍目にもお互いに慣れていない感じが見えたのでしょう。ありのままを伝えるとややこしくなりそうでしたが健君が機転を利かせて、


「俺K市から来ていて、雅仁、高橋雅仁の地元のN市に来た時にちょっと仲良くなって今日道案内を頼んだんです」


と答えたので小林さんは納得した様子でした。小林さんは、


「じゃあ鈴木さんは高橋さんとは面識があるの?」


と問うので「いえ、ありません」と言ったところ、


「そう」


と意外とあっさりとした様子で頷いていました。続いて菅野くんが事情を説明しました。


「もともと俺が高橋と高校が一緒でつまり高橋がK市の高校に通ってたんですけど、そこで友達になったんです。俺は卒業後はK市にある大学に通ってて今三年なんですけど、高橋はフリーターでバイトしてたんですけどまあ何というか高橋がこの前失踪しまして…」


「え…?失踪ですか?」


思わず敬語になってしまうくらい小林さんにはショッキングな話だったようです。


「あ、そういえば思い出しましたけど、おじいちゃんは高橋さんとボランティアで会ったって言ってた」


「ボランティア?何のボランティアですかね?」


「公園ボランティア。公園のごみ拾いとか草むしりとか、空いた時間でやるようなボランティアみたい」


「え…知らなかったなぁ…」


これは菅野くんの言葉。友人の菅野くんも知らなかったという事は意外だが考えにくいという訳ではないなと思いました。


「でもそれなら接点がはっきりしましたね。多分ボランティアで一緒に活動しているうちに飲み友達になったんでしょう」


僕は自分の中でまとまった考えを述べました。


「そうなると、何か雅仁の情報というのもちょっと分らないかなぁ…上京したいって言ってたから凡その行先は分かるんだけど、具体的にどこなのかっていうのが分んなくて」


「そうだったの…ちょっと私にも見当がつかないんですけど、もし二人の会話で何か思いだしたら連絡しますよ」


「あ、そうしてもらえると助かります」


そのまま二人は連絡先を交換し合った。僕の方は別に交換する理由はなかったので見ていただけでしたが、家まで上がってそのままというのも何か申し訳ないような気がして今一度部屋の中を見回して、再び目が留まったパソコンについてこんな風に訊いてみました。


「あ、個人的に小林さんの事で訊きたい事があるんですが、あのパソコンにあるのってペンタブですよね。もしかすると絵か何かを描くのが趣味とかですか?」


あくまで場を繋ぐための質問だったのですが小林さんは表情をぱあっと輝かせて、


「あ、分りますか!そう、あれ私の仕事道具なんです」


「え?仕事…じゃあイラストレーターとかですか?」


「ビンゴ!実は私もともとここの出身じゃないんですけど、イラストって何処でも描けるなって思った時に家賃の事とか考えて母方の実家のおじいちゃんも一人暮らしだっていうのもあったから、こっちで暮らそうかなって思って」


「ええ!凄いですね!」


何が凄いのかは自分でもよく分かりませんでしたが、そういうのが一般的にありふれているかどうかは別にしても自分としては小林さんが大胆だなと思ったのかも知れません。


「あの…もしよろしければ、少し絵を見せて頂く事ってできますかね?」


これは完全に本題からは外れるのですが、実は僕はネットの投稿サイトなどでイラストを見るのが好きなのでせっかくならば見せてもらいたいと思ったのです。


「『シブ』のアカウントあります?」


「ありますよ」


「それなら、そこで「虹野スミレ」って検索してみて。実はまだ仕事もそんなには貰ってないからバイトしながらなんだけど」


「分りました。帰って調べてみます」


その後二言三言交わしたところで健君が言いました。


「あの、じゃああんまり長居も悪いと思うんで、俺そろそろ」


確かに用事は果たされたわけですし、今日はここで帰るのがいいと思いました。


「あ、そうだね。じゃあ今日はどうもありがとうございました」


初対面ではありましたが小林さんは玄関先で見送ってくれました。それから健君と車に乗った時、


「手掛かりなしか…なんかすいませんね、こんな事に巻き込んじゃって…」


と彼の顔にははっきりと申し訳ないといった気持ちが顕われていました。


「まあ良いよ。僕も気になるし、可能性は薄いけど公園のボランティアの関係者を当たるって方法があるよね」


咄嗟に思いついたことでしたが健君は感心して、


「なるほど…なんか本当に探偵みたいですね、鈴木さん」


言いました。探偵という言葉でちょっと思い出したので、


「そういえば捜索願とかは…」


と訊いてみたところ、


「やっぱり親御さんの意思と、それから事前にバイトも辞めてるから事件とかではないだろうって事で出してないみたいです」


という返答。こういう話を聞けば聞くほどそれこそ居場所が突き止められるまでは気になってしょうがなくなるのですが、焦ったところでどうしようもない事は明らかだし、もしかしたら本人から連絡が来るかもしれないので待ってみるのがいいのかなと思いました。



その日は手伝ってくれたお礼にと昼食のラーメンを奢ってもらって解散という事になりました。
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二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
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