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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

麗しき人の夢 ⑦

夜明け前から降り続いているやや強い雨。眠りが浅くなってきた頃からその音が気になりはじめていた。起きてから窓の外をちらっと見て、まだ本降りという感じなのを確認すると無意識に溜息が出た。夏の渇水という事もあるし、この辺りの農家さんの事を考えれば『恵みの雨』という意識を忘れてはいけないとは思うけれど、急に土砂降りの雨になると心の準備が出来ていないからか、或いは急激に気温が下がるからか少し気分が変わってしまう。


<水溜りとか出来てるかなぁ…>



出勤時の道路状況が気になる。車での移動だが路面が荒れると多少気を遣わなければならないし、視界も悪いので嬉しくはない。まあ色々考えてもしょうがないので足元で鳴いている同居人にご飯をあげる事から始めるべきだろうと思った。



車での移動で傘は要らないと思ったが、玄関から車までの移動で少し濡れてしまって地味に後悔した。



「あ、先輩。おはようございます」



仕事場の駐車場に停めた時に佐藤君もちょうど車を降りたところだった。黒い大き目の傘を差していたので建物に入るまでちょっと中に入れてもらう。


「おはよう。雨凄いね」


「ええ、数日間は悪天になるようですよ」


「らしいね」



その時、先日の土日にN県に小旅行に行った際の話も少し聞いた。N県と言えば地元にもある中央の競馬場と同じようにかなり立派な競馬場があるという知識があったので「そういえば競馬場あるよね」というくらいに話を振ると、


「大分遠いですからね、県境の辺りを中心に巡ったので」


と返ってきた。地理はあまり得意ではないので今後競馬場に行く事も考えて一度調べておくべきかなと思ったりした。



その日の仕事は恙なく済ませたのだが、何かしら物足りないように感じた。というよりこの時期の地元の話題は少なくなるので何となく週末の予定も迷うというか、どうせ明後日も天気は良くないだろうと思って少しばかり憂鬱になりかけたのである。競馬が趣味だからどうせテレビでレースを見ているだけなのだが、大きなレースがない週なのでいまいち盛り上がらない。


<まあそんなことを考えても始まらないよな>



と朝と同じように言い聞かせるようにして帰路に着く。自宅に近づいてきたところで山の上にある我が母校の中学校から傘を差して下校してくる集団を見つけた。水を弾かないように気をつけて運転していたけれど、制服ではないジャージ姿なので「多少濡れても大丈夫かもな」などと思ったりした。


<あ、そういえばあの子達は何部だったんだろう?>



家に着いて猫にご飯をあげながら最初に思った。自分は中学時代は『陸部』こと陸上部だったけれど、おぼろげな記憶の先には雨の日の朝練で狭い体育館で何週も走っていた陸上部があった。雨の日は『よほどのことがない限り』グラウンドは使えないので体育館か、或いは階段を使っての地味なトレーニングをしていたり、場合によっては廊下を走っていた。よほどのことがあれば、強行で雨でぐちゃぐちゃになったグラウンドを走ったりもする部活なのだが、雨の日は比較的楽な練習で私は嫌いではなかった。



今もそういう風習が残っているのかどうかは分からないけれど、雨の日は雨の日なりの過ごし方というものがあって、そこに情緒を伴うような体験があるものだろう。そういえば雨の日の休み時間に図書室に行って気紛れに本を読んでいたりした事もあったような気がする。あのエッセーの作家が梅雨入りした頃の心情をこんな風に述べている。



『梅雨に入るとどうも鬱屈してくるけれど、書物の世界に入り浸りだった私にとっては実を言えば雨は良いBGMで、高校時代部室で本を貪るように呼んでいた頃の記憶が蘇る』



だが一方で作家は「雨の日」と「夢」というのはあまり親和性がないともいう。『むしろ夢とは対極にある厳しい現実は雨に打たれるシーンに象徴されていると言えなくもない』と独特の言い方をする。そしてだからこそ、雨=現実から逃れるためにも書の世界に逃げ込むのかも知れない、とも語っている。何となくは分かるような気がする。




実をいえば私の読書経験は中学時代は乏しかった。活字が苦手で文章作成などもっての外。ただ例外的に友人と競馬の話をしていた時には饒舌で、大人が読むような競馬の雑誌を隅々まで読んだり、ほんの少しだが競馬の作文もしていたような記憶がある。けれどそれが大学時代に自分で創作もどきをやるようになるのだから面白いものである。友人とツイッターでやり取りしているのも元を辿れば大学時代に創作サイトを立ち上げて彼にそれを読んでもらっていたという事の続きである。今はなかなか連絡できていないけれど、地元には居ないもう一人の友人にもアドバイスを貰っていたりした。



時折しもライトノベル全盛期。淡い気持ちで書き始めた小説だが、応募できるレベルの閾には達していないと自ら判断してしまって未だに書いたものが良いのか悪いのかもはっきりしないのだが、少なくともライトノベルとして出せるようなものではなかったように思う。




しばらくすれば28になるという年齢。それなりに社会に揉まれて現実というものが見えるようになってきて、読書で感銘を受け無制限に想像力が広がっていった頃とは違って手の届く範囲のちっぽけな事が関心事になっている自分を時折発見する。ライトノベルのような破天荒な設定で書けるかというとどうも作り物過ぎて想像が続かない。何かが噴出するように書きはじめたものにもどことなく世知辛さが漂う。それに苦笑しては、まだ何とか活路がないものかとせせこましく捻ってみたり。



「やっぱり俺の場合、実生活での体験が必要なんだろうなぁ…」



そう独りごちた時、満足したらしい同居人が「にゃ~」と一鳴き。それを見て自然と頬が緩む。


「ということは猫を出すのは決まりだろうな」


と、小説の事の設定を考えながら晴耕雨読よろしく読みかけだった学生時代から続くシリーズの新刊を読むのだった。



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