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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

フレミングに宛てて ①

転びました。その時僕は思いました。

<ああ、やっぱり世の中はこんな風に出来ているんだなと>

何を馬鹿げたことをと他人は言うでしょう。でも僕はその時大真面目にそう思ったのです。何をやっても上手くいかない。ユーフォ―キャッチャーで景品を取った事がないくらいには不器用で、抽選会で白玉しか出した事がないくらいにはツキがないというようなしけた話しかエピソードがないくらいには無内容な日々を過ごしていると、しまいには石に躓いただけでも大事になってしまって、先の知れているバイト帰りの僕は世を儚む一歩手前までやってきてしまいました。


仲の良かった友人に愚痴をこぼしてばかりの自分に辟易して、次第に疎遠になりつつあった頃でしたのでその日転んだエピソードを話す相手が居なかったのはまあ運が良かったと言うべきでしょうか。これと言った趣味もなく少し読書をするというくらいですが、最近はご無沙汰です。期待しない事が美徳なのだと言い聞かせて来たものの、それで生き抜いてゆけるかどうかは甚だ不安であります。



ところで転んだ時も仕方ないなと、こういう巡りなんだと、世の中はこうなっていてこんな何でもない道に石が転がっているのも致し方ない事なのだと言い聞かせようと思って、躓いた石の方を振り返ってみると若干ですが違和感を覚えました。運が悪いのは分かりますが、流石にそれだけでは説明出来ない事が目の前にあったのです。それは何かと申しますと、


「なんか…妙にデカい石だな…」


この町中の普通の道には珍しい異様に大きな石がそこに鎮座していた事です。歩いていてこれに気付かない僕もどうかしていますが、それは一旦置いておくことにして、流石にこんな50センチもあるような石が堂々と歩道の方に転がっていたら危ない事この上なしです。ただ僕は、


<逆にこんな石があったら誰でも転ぶだろうから、そんなに不運ではないのかも知れない>


とポジティブに捉え直そうとしていました。でも次の瞬間思いもよらぬことが起り、僕の頭は年代物のパソコンの様に突如としてフリーズしてしまったのです。


「あ、ごめんごめん。そこに置いといたの俺だわ」


後ろから自転車がやってきたと思ったら、それに乗っていた同年代位のそこそこ端正な顔の男性が僕にこう謝ってきたのです。


「え…?こんな所に置いといたんですか?」


何とか頭を整理して僕は何とかこう訊く事が出来ました。


「うん」


男性は平然とした様子で…というかどこか超然とした様子で事もなげに言いました。


「何の為に?」


流石に理不尽だと思いましたのでそう理由を問いただすと、


「誰か転ぶかなと思って」


僕は流石にそんなイタズラはないだろうと思って言いました。


「こんな大きな石で転ぶ人なんて普通居ないですよ」


混乱していたのかも知れませんが自分が転んだことを棚上げにしてしまっていました。すると一瞬キョトンとした男性は、


「え…?今君転んだよね?」


と冷静につっこみました。


「ええ転びましたけど」


「怒らないの?」


僕の表情を見て男性は心底不思議そうでした。僕は答えます。


「いえ、これだけ大きな石に躓くのは本人が悪いですよ。つまり僕の落ち度なので、怒る気にはなれませんね」


「…。」


無言で見つめる男性。


「どうしました?」


「いや、君面白い子だなと思って」


「面白いですか?つまらないと言われる事はよくありますけど」


「ぷ…ぷぷ…ははははは」


何故か突然堪えきれないとばかりに吹き出して大笑いする彼。あまりにも気持ちの良い声だったのでそれにつられて何となく僕も笑っていました。


「いや…まあね…その…」


笑いが収まってきたところで一度仕切り直しと言う感じで彼は続けました。


「何か全然予想してなかった事が起ったからなんか呆気にとられてるんだけど、本当にゴメン。悪気はあったと言えばあった」


「あったんだ…」


「そりゃまあ、こんな石を道端に置くくらいだからね悪質っちゃ悪質だよね」


詫びられているのもあるけれど何か釈然としないところがあったので訊いてみました。


「なんでこんな事をしたんですか?」


「怒られるべくして怒られたかったってとこかな…」


それはこれまでに僕が訊いた事も無いような理由でした。何か訳ありだなと思ったので、


「ここで立ち話もなんですから、石をその自転車のカゴに入れて何処かに移動しませんか?」


と提案した。


「ああ、それだったら公園とかどうですか?ここから近いですし」


「分りました。じゃあ先に行ってて下さい」


「ええ、じゃあ」


彼は見るからに重そうな石を両腕で抱き上げるようにして自転車のカゴに置きました。カゴが若干歪んだような音がしました。市内には数少ない公園ですが、そこそこ広くて子供の頃はよく遊んだ記憶があります。家のある方角もそちらだったので丁度良いなと思うくらいでした。200メートルほど歩いたでしょうか、公園に入ると先ほどの男性の他に小さい子どもとその父親らしき人が遊具で遊んでいるのが見えました。先ほどの彼は遊具の方とは反対のフェンス近くで手を降っていました。


「それでさっきの話の続きだけど…」


彼の傍に近づくとおもむろに身の上話のようなものが始まりました。


「俺、この辺りの出身じゃないんだけど、具体的にはK市の方から来てるんだけど」


「はい」


「友達がこっちの出身でさ、時々電車で来てたわけ」


「ええ」


「ああ、大丈夫この自転車はその友達から勝手に使って良いって言われてるやつだから。高校時代に使ってたやつみたい」


「なるほど」


「そんでね…まあ何だ、その友達がさこないだ失踪した」


「え…?」


軽い口調だったので油断していましたが、急にあの石よりも遥かに重々しい話が来たので思わず身構えてしまいました。


「ああ大丈夫、何かの事件に巻き込まれたんじゃないと思うから」


「そうなんですか?」


ただそう受け入れるほかありませんでしたが、聞けば聞くほど後に引き返せないような感じがしました。


「あいつ、上京したいって常日頃から言ってたから。親には反対されてたらしいんだけど、だから家出じゃないかな」


「そうだったんですか」


失踪よりは家出の方がショックは少ないだろうと思ってしまうのも変な話ですが。


「ところで、それがあそこに石を置いたのとどんな繋がりが?」


「その友達、雅仁って言うんだけど、雅仁が突然居なくなっちゃったから何か調子出なくて…あと何か自分もこれで良いのかって分んなくなっちゃってさ」


「で、石を置いたと?」


「誰かにダメな事をやってダメって言ってもらえば、何となく調子でるかなって思って…」


それで話が終ったらしいけれど、理解できるような理解できないような話でした。念のため訊いてみます。


「じゃあ僕はあなたに怒ればいいんですか?」


「うん。そうなんですけどね、理論的には」


「でもそんな話をされたら怒る気にはなれませんよ」


「でも、君が何でって訊いてくるから」


これでは話に終わりが見えないので、何とか頭を捻ってこう言いました。


「まあ一般的な話ですけど僕は怒らないけど、他の人だったら迷惑だし怒るし、もしかすると警察沙汰になるかも知れないので辞めた方がいいですよ?」


「はぁ…」


ですが相手も何か不完全燃焼のような感じなのでしょうか、仕方ないのでこう提案します。


「一応ですよ別に今回チクるという訳ではないのですが、あなたの名前と連絡先を教えてもらえば今度こういう事があったら警察に証言するという予防にするとして、どうでしょうかね?それで手を打つというのは?」


我ながら大人な解決方法だとその時は思いました。けれど彼は何故か意気揚々と、


「え、じゃあ連絡先交換しませんか?俺君の事なんか気に入ったからできればそっちの連絡先とかも教えてほしいんだけど…」


と答えました。ちょっと気味が悪かったのでその返答に引いた様子で見ていると、


「あ…無理にとはいわないよ。本当になんかただちょっと面白い人だなって思っただけだからさ」


面白い人だと言われて少し良い気持ちになったのもありましたが、そこで僕は彼の要望通り連絡先を交換しました。彼の名は『菅野健』と書いて「すげのたける」と呼ぶそうです。


「じゃあ、俺この石片付けてくるから」


「ちなみにそれどこから持ってきたの?」


「あっちの川です」


健君は駅の方を指さします。おそらく駅の近くを流れている川の所に降りれる場所があるのでそこから降りて石を川から拾い上げて来たのでしょう。確かに石には少し水で濡れた跡があるようにも見えました。健君は「じゃあ」といってそちらの方に自転車を走らせて途中で右に曲がり見えなくなりました。



何と言えばいいのか分らない出会いでしたがその日はそれから何事もなく終わりました。
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