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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

麗しき人の夢 ④

特にこれといった予定のない大型連休にはすっかり慣れてしまっている。せいぜい友人と飲みに行くくらいしか予定がない。猫もいるのであまり家を開けたくないという理由もあるが、本を読んだりして静かに過ごしていたい性格が大いに影響している。ネットのSNSで日常的にやり取りする友人も、将来は晴耕雨読が理想らしく、読了した本のレビューをするブログをちょとこちょこと続けているが、基本的には賑やかなところはそれほど好きではないらしい。



連休の3日目の夜、変わり映えのしない駅前の風景を見て「ふう」と一息つく。春の割には天候がコロコロ変わり、寒い日と暑い日が交互にくるような感じだったがこの日は生暖かいが雨上がりである。駅近くのコンビニで待ち合わせなのでその辺りをウロウロしながら待っていた。5分としないうちに駅の方から友人が歩いてくるのが見えた。


「よう」


「どうも」


ネットとは違ってどこかぎこちなさが残る挨拶を交わす。それほど意識していないが、どうも提案する方が自分なので相手は若干遠慮がちである。「じゃあ行こうか」とどちらともなしに言って、近くの店を目指して歩き出す。ネットで既に確かめていた事をリアルでも再確認するように近況報告が始まる。間もなく飲み屋に入店して予約していた席に案内される。4人ほどが座れる個室で、セットのメニューの料理が既に幾らか机に置かれている。


「じゃあ、とりあえず生かな」


「俺は今日そこそこ飲むつもりだよ」


毎回顔を合わせる度に思うのだが、中学の頃からの付き合いだから友人の中学時代の顔と今の顔を比べて大分変わったなと感じたり、あんまり変わらないのかもと思い直したり。そして、いつの間にか話題は競馬の話題になってゆく。何故かと言えば、二人の趣味が競馬だからである。読書とどちらが主なのかさえ分からなくなるほど、濃い競馬の話題を交互に論じ合う。


「やっぱりディープ産駒は春天勝てないね。マイルから中距離なんだろうな」


「血統的にはブラックタイドの産駒が勝ったからなぁ…どちらかというとディープも長距離適性があったんだけど」



中心の話題はこの間行われた天皇賞・春の事についてである。日本で一番有名なと言っていい演歌歌手の持ち馬がこのレースを制してGⅠ2勝目。鞍上の絶妙な逃げもあったという事で新聞をはじめとするメディアで大きく取り上げられた。にわかな競馬ブームを感じつつ、ほろ酔い気分でする競馬の話題は延々と続きそう。と、流石にその話題だけで続けるのも勿体ないので、少しプライベートな事を訊いてみる。


「奥さんとは上手くいってるの?」


「まあね」


既婚者である友人は時々独身時代を偲ぶように振り返るが、どちらかというと家庭では奥さんの方が強そうな雰囲気が窺われる。


「そっちは何かないの?」


「うん。今のところは特にないね」


当然訊き返されるわけだが、特に強く求めないからだろうか二十代も後半になった今でも浮ついた話の一つも出来ない。むしろ日々小説を始めとした創作に対する意識が高まっていて、多少孤独で色々考える方がいいアイディアが出そうに感じているくらいである。


「作家になる夢は今もあるのかい?」


友人が何気なく訊いてきた。会うたびに、ちょこちょこと小説のアイディアを聞かせて批評してもらうのだが、いつかは良いものを完成させて読んでもらいたいと思っている。けれど、今はまだ構想段階と言っていいだろう。


「なれるもんならね。でも狭き門だと思うよ」


当たり障りのない一般論を接ぎ穂にして、そこから話題が彼が知っている小説家の創作に対する意見や、最近読んだ面白い小説の話に変わってゆく。そこで丁度良いのであのエッセーの事を話してみる事にした。


「ああ、まえ言ってたやつね。エッセーは読まないからなぁ…唯一読んだのは伊坂さんの『仙台暮らし』くらいかな」


「それは俺も読んでた。なんか珍しいらしいよね」


作家は特に小説を書いている人は作品が評価されるし、作品を世に出す事が仕事のようなものだろう。けれどその私生活は意外と謎に包まれている部分も多く、自分も作家を目指すというなら、参考になればと思って作家のエッセーを読み始めたのがあの本を知った切っ掛けである。ちなみに大学時代実際に仙台の近辺で過ごしていた友人だから何か思い入れがあるのかなと聞くと、


「俺も仙台市内の喫茶店で本を読むのが夢だ」


と語った。素敵な情景が目に浮かぶ。



夢…といえば『麗しき人の夢』である。確か、作品の中にも「飲みの席」を扱った章があった。



『友人と酒を呑みかわしている夢というのはなかなか見ないなと思う。そもそも酔いと夢というのは非常に似通っていて、酔っている間に喋っている事の多くはやや現実離れしているかも知れない。酔った日の夜にみる夢もあんまり覚えていないものである』



私もいま夢見心地になっているから、酔いと夢が近いというのも案外頷けるかもと思う。店で飲めるN市の地酒をちびちびやりながら改めて『飲みの場』なのだという事を意識し始める。


『そもそも夢というのは長く浸れるものではない。レム睡眠も途切れ途切れだと言うし、じっくりと世界を味わう前に展開してしまっていつの間にか起承転結の『結』がやってきて目覚める様な事もしばしばである。けれど考えてみれば酒の席というのも、日常生活の僅かな時間である。更に言えば忙しくなってくると、徐々にその席も減って、久しぶりに旧友と再会して飲んだとしても、それこそ夢を見ている時のようにあっという間に過ぎていってしまう』



読んだときには何となくそうだなとしか思っていなかったけれど、今まさにそういう時がやってきて気付くのは、この時間がこの上なく楽しいという事、そして飲み放題コースが通常2時間程度であるように、宴もたけなわになるのも比較的早い。しばらくして帰りの電車の事を気にし始めると、もうまとめ…『結』に入らなければと何か忙しくなる。


そんな事を意識し始めたらなんだか勿体なくなってきて地酒を熱燗で一杯頼みたくなった。


「じゃあ、俺もそれ飲もうかな」


「地酒旨いよね。いやぁ、近くに蔵があるのに昔全然知らなかったし…ってか知ってても飲めなかったしね」


「結構評価高いらしいよ。モンドセレクションとか、なんか受賞してた気がする」



そうしている間にまた話題は競馬の話題になる。もはや血肉と化している競馬の話題に相槌を打ちながらエッセーの最後の方を思い出していた。


『ただ夢の中で見るその旧友はいつも学生時代の顔のままだ。その当時の顔とだいぶ皺も目立つようになった顔を感じながら夢のように過ぎていった青春を振り返るのも悪くない』



無意識に私も友人の顔を見ていた。赤くなり始めている顔にはまだ皺はないけれど、彼と同じく時々夢で出てくる懐かしい友人達ともどこかで飲んでみたいなと思ったりした。



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