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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

包まれて

「変わり栄えもしませんね」


抒情的な声だった。まるで力の無いように見えて実は凛としている、その内面が現れたかのように小さいながらも明確な響きで耳に届いた言葉。意味を測り損ねていなければそれはアンビバレントだろう。


退屈である反面、安心するといったように。


「変わりませんかね?」


私はそれでも確かめてみたくなる。本当にそれだけなのかを。彼女は微かにほほ笑んで、


「そうねぇ」


と呟いてからまた頭上の桜を見上げる。時が止まったかのような静寂が感じられたのは私だけだろう。彼女は何かおかしく思えたのかまた笑っている。


「去年はもっと、なんというか豪勢だったような気がします」


その言葉もどれくらい真実なのだろう。記憶では去年も満開の時に来たと思うのだが。


「でも、今年もなかなかのものでしょう?」


と云うと、


「そうですね。今年の方が好きかも知れません」


と返ってきた。明らかに彼女は遊んでいる。幾つになっても変わらないその悪ふざけに似たものを、相も変わらず微笑ましい気持ちで受けとめる。


「貴女も変わりませんね」


可笑しかったのは彼女の言葉だけではなく、変わらないままだと誇示してみせた目の前の女性だったのかも知れない。そして本気なのか、その振りなのか分らないような表情で、


「あら、変わりましたのよ私は。だって最近は、みんなに綺麗になったねと言われます」


と主張するのだ。


「綺麗になったって言って欲しいんですか?」


「みんな事実を述べたまでだと思うのですよ」



静かに見つめ合う。確かに彼女は前に会った時よりも一層輝いて見える。もちろんここでひらひらと舞い散っている桜もそう映すのに一役を買っているのだろうけれど、まるで絵画から抜け出してきたかのような儚ささえ漂っている。


「確かに事実なのかも知れませんね。でも嘘のような綺麗さですね」



もしかしたらこの光景が全て嘘なのかも知れない。何か夢のように、虚構のように、作り物の。



「確かめてみてはどうですか?」



それは誘惑なのだろうか、それともただ遊んでいるだけなのだろうか。



「この情景を見れただけで十分ですよ。幻だとしても、見る価値があると思います」



そう言った時の彼女の表情がやはり私には読み取れなかった。




そこで私は目が覚めた。布団に包まれた私に見えるものはカーテンから射し込んで来る朝の光。一筋の光に照らし出された部屋の一部が鮮明に現実を主張する。夢の女性とは何処かで会った事があるような気がしていたのに、多分そんな人とは会った事がない。けれど少し寝ぼけている自分には知り合いだったような気もしなくない。もしかしたら何かの映画で見た人なのかも知れない。



胸に微かなぬくもりがあるような気がした。




けれど夢で見たような場所が何処かにあったような気がして私はその日城跡の方へ向かっていた。もう桜が満開で、勿体ないくらい一気に咲き誇っている。観光客もかなりの数がある。さくらウォークというイベントで歩いたことのあるコースを辿ってゆこうと思った。



しばらく歩いていると確かに夢のなかで見たのとよく似ている場所を見つけた。夢の中よりも桜がもっと鮮やか…豪勢に咲いているように感じられた。



月並みだが彼女は桜の精なのかも知れないと思った。何処かで小さく、


「確かめてみればよかったのに」


と聞こえたような気がした。いたずらな表情とともに。
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