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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

読書のすすめ

常に良好というわけではない。爽快な時もあればそうじゃない時もある。良い時よりも悪い時にどう保つかという事の方が大事に思えてきたのはいつからだったろう。


ブルーのちょい上くらいの気分で電車に乗る。気晴らしに大き目の書店でも行こうと思ったのである。毎月給料の幾らかが書籍代に消えてしまうくらいには読書家で、積読もそれなりにある平凡な家庭人。妻が機嫌の悪い日にそっとしておいた方が良いなと思った末、静かに読書を初めたところ、意外に得るところが大きく以降役に立ちそうな本を探しては買いあさるようになった。



想像されるかもしれないが、今日書店に行くのは妻が不機嫌な日だからである。それが一つの「逃げ」なのではないかという疑心もありつつも、そのとげとげした物言いに反論してしまうのも厄介だし、機嫌を直してくれるような贈り物も一緒に買いに行くつもりだった。惚れた腫れたの問題で、惚れてしまった側の性というのか弱みというのか、出来るだけ気持ち良く過ごしてもらいたいのは確かだからあまり強く言えない。かと言って物で何とかしようというのもまた情けない…などと考えているとこっちまでどんよりしてくる。


<いけない。気分を切り替えよう>



せいぜい20分程の乗車だからその間もスマホを弄るなりしていればあっという間だ。リラックスした乗客は同じような姿勢で目を閉じたり、スマホを操作するなりしている。実を言えばこういう時間は嫌いじゃない。スマホやケータイで電話をするのは流石にご法度だと思うけれど、マナーモードでゲームをするくらいなら時間の有効活用だとさえ思える。ただ、出来る事ならもっと有意義に、と考えるなら方法はほぼ一つに限られる。


『読書』


である。特にこの静かで一定のリズムでカタン、カタンという心地よい振動のある乗り物の中では場合によっては集中力が増す場合があり、読みかけだった小説の文字を追うのが個人的には好きだ。本を買いに行く間にも本を読むという行為について、何ともけったいな事だと思わなくもないけれど気分を変えるにしても読書はいい方法であるのは間違いない。


<ああ、ここからか。確か主人公が、あれして、あれしたところだな>



軽く展開を思い出しながら読み始める小説は丁度全体の中間と言ったところ。なんの因果か、この主人公も自分と同じようにダウナーに入っている所なので気持ちが同調して捗る。ダウナーと言っても主人公は最初から何か見えない敵と戦っているような状況で、何に対して不満を訴えればいいのか分らない気持ちを抱えていて、当初の意気込んでいた状態から一つの失敗をして腐りそうになっている発言が続いている。



<分かるなぁ…俺もちょっと前までこんな事を考えていたような気がする>


主人公の場合はフリーターで町で起る事に首をつっこんでいるようなタイプの人間だし、坦々と仕事をこなしている真面目な方の自分とは少しタイプが違う。それでも景気だとか、ところどころ理不尽な経済政策だとか分かり合えない相手とか、そういう何か咬み付きたい気持ちがあって、多分この主人公が動いているのもそういうものを自然と反映しているような記述がある。ときどき主人公が吐き出す言葉には虐げられた者の叫びが見え隠れする。最初の方はそういうものを見せないように勇猛に挑んでゆくのだが、徐々にそれが中心になってゆく。



電車が揺れるのも意識しない程に読みふけって一駅二駅と過ぎてゆく間に、すっかり物語にのめり込んでしまっている。左隣に座っていた人が席を立って降車したのを確認して、


「ふぅ~」


と一息ついた。この時、右隣の人が何となくこちらを観ているような気がして少し振り向いた。そこには深紅のつばの広い帽子を被ったおばあさんが座っていた。そして確かにこちらを観ていたのだが何故か嬉しそう。


「どうかなされましたか?」


おだやかに訊ねてみると、


「いえ、とても熱心に本を読まれていて凄いなと思いましてね」


と上品に返してくれた。そんなに集中していたかと思って少し苦笑い気味に、


「あ、なんか読むときにはこうなっちゃうんですよ」


と照れ笑いをした。するとおばあさんは右手を口許にあてて「ふふふ」と笑ってくれた。粗野な人が多いというわけではないけれど、こういう上品な人もこの辺りに居るんだなと実感しながらまた本を読み始める。物語がクライマックスに差し掛かっていたのもあって、どんどんページをめくるペースが上がってゆく。主人公がとある決断をしたところで目的地が近づいた。


「ふぅ…」


先ほどと同じように一息つくとまたおばあさんがこちらを観てほほ笑んでいた。流石にちょっと恥ずかしくて一礼してそそくさとドアの前に移動する。電車から降りて、そのまま書店を目指した。



駅からそんなに遠くないこの市では恐らく最大の規模と思われるデパートの9階。私はひたすら本を物色していた。もともとは自分の為に買うつもりだったのだが、途中から妻も気に入ってくれそうなものを少し見つくろう事にして、帰りに階下でプレゼントを買うつもりだった。



<女の人ってどういう本読むのかな?雑誌とかの方が良いのかな?>


などと思いながら歩き回っていると意外な発見。先ほど駅で隣に座っていた深紅の帽子を被ったおばあさんが詩のコーナーで熱心に本を探していたのである。思わず、


「あ、先ほど電車で乗り合わせましたよね!」


と声を掛けてしまった。彼女は一瞬驚いた表情になったがまたにっこりと笑い、


「ええ、お恥ずかしながら私も人の事を言えないくらい本が大好きで、最近は特に詩集を読むのが好きなんです」


「へぇ~凄いですね。なんかそういうの似合ってますね」


「そう?ありがとう。褒められたみたいで嬉しいわ!」


その表情は本当に嬉しそうだった。そこで私はピンときた。


「そうだ。妻には詩集を贈ってみよう」


「奥さんに?それならこういうのはどう?」


自然におばあさんに本を紹介してもらう流れになった。実際、同じ女性なら合うものも分かるかも知れない。


「ああ、これいいかも知れませんね。これにしてみます」


折よく彼女が読んだことのあるお気に入りのものが置いてあった。それを購入する事にしておばあさんにお礼を言う。


「ありがとうございます。実は妻がちょっと機嫌が悪くて、何か気に入るものをと思っていたんです」


何となく事情を明かしてしまった。すると彼女は何か感じいるように、


「そうだったの…。でも貴方の気持ちはきっと奥さんに届いていると思うわ。大事なのは気持ちよ」


とアドバイスをしてくれた。何か大切なことを思い出させてもらったような気がして、また一礼をし、自分の本もそこそこに急いでレジに向かって会計を済ませた。というのもいいプレゼントを思いついたのである。



☆☆☆☆



帰宅して妻に詩集を渡した。


「え…?どうしたのこれ?」


「うん。なんかいい本らしいから気が向いたら読んでみて」


彼女に意外なものだったのか、不思議そうにしながらも本をゆっくり眺めていた。


「あと、これ。今日電車でオシャレな帽子かぶってる人が居たんだけど、未空にはこっちの方が似合うと思って」


「え…?これって…」


それは麦藁帽だった。5月の今にはまだ季節的には早いけれど私には考えている事があった。


「それを被って歩けるような避暑地、例えば海とかに今年の夏に行ってみようよ」


「え…」


妻は言葉を失っているようだった。喜んでくれたようにも見える。しばらく間があって彼女はこう言った。


「何だか物語の主人公になった気分…」



<君は僕の物語の中のヒロインだよ>



なんてそこで言えたら最高なのかも知れないが、あと少しで読み終わるさっきの小説が気になっている自分だった。
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