FC2ブログ

スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

中学校の毎日

昼休み、何となく校舎の外に出てみた。特に理由はないけれど下に降りる階段の手前から向こうが先の先まで見渡せそうな高さでやっぱりだだっ広いグラウンドを眺める。こうしていると絵の具の匂いが染み付いた美術室も好きだけど、元気よく走り回っている人が見えるこの場所も結構好きだったのだと改めて思った。


「あれ、珍しいね。美香?なんかあったの?」


少しばかり黄昏ていたら友達の裕子が私に気付いて声を掛けてくれた。


「ううん。なんかただ見てただけだよ」


「あ~、何となく分るな。最後に観ておきたいって気持ちでしょ?」


「まあ、そうだね。部活の時も外で運動している人達の声とかよく聞こえてたからなんかね」


すると裕子も私と同じように階段の手前に腰を降ろした。


「裕子はどうしたの?」


妙に機嫌の良さそうな裕子はそこで足をぶらぶらさせていた。


「いや、今日ね、実はちょっと面白いモノを持ってきてだね…」


「え、なになに?」


裕子は悪戯っぽい表情で制服のポケットに手を入れると、小さくて四角い赤いそれを取り出した。


「じゃ~ん!まあ、今なら先生も取り上げることはないかなって思ってね」


「ああ、デジカメ。そうか写真に残しておきたいよね」


それを見て私も持ってくれば良かったなと思った。明日持ってこようかな。


「何か撮りたいものとかあるの?」


「う~ん…まあ友達とか、あとは校舎の色んな所かな。何だかんだで3年間お世話になったし」


「校舎か…わたしは美術部で散々絵を描いたからそんなには…」


その時グラウンドの方でサッカーをしていた人の快活な笑い声が響いてきた。<元気だな男子は>と一瞬思った。運動部じゃなかった私も『なでしこジャパン』に影響されて少しサッカーをしてみたいと思った事もあった。残念というか、当たり前なのかサッカーは男子だけで他の球技にはあまり興味を持てなかった、というか熱血過ぎるような気がして静かな部を選んだ。結果的に絵も上達したし、高校に行っても絵の勉強を続けようと思えているから今では良かったと思っている。そんな私の気持ちを知ってか知らずか裕子は、


「サッカーとか良いよね!ボール蹴らせてもらおうか?それで撮ってよ」


と無茶ぶりをしてきた。裕子は言うや否や階段を駆け下りて、下から私を手招いている。流石元陸上部。


「待ってよ…本当に撮るの?」


そう言いながら裕子を追いかける。中央辺りでサッカーをしているおそらく後輩の男子達に声を掛けている裕子。


「あれさ、私達にボール蹴らせてくんない?ちょっとでいいから」


「あ、いいっすよ。はい」


意外にも気前よくボールを渡してくれる後輩。彼は冬なのにやや日焼けをしているような肌色で、間違いなく運動部であると思われた。


「すいません…」


裕子の無茶を少し謝るように言って、彼女から渡された真っ赤なデジカメを裕子に向ける。


「こうかな?ボール蹴った瞬間に撮ってよ。格好いいと思う」


それは結構難しいのではないかと思ったが、とりあえず言うままにやってみる。<裕子がボールを…蹴った!>心の中でタイミングを測りながら裕子の動きに合わせてカメラのシャッターを押す。


「あ…ちょっと遅かった…」


流石に一回目は失敗で、撮ったものを確認すると裕子は足を振り上げているがボールが画面に映っていないなかなかにシュールな画になった。


「うわ。わたしバカみたいじゃん!!マジウケる!!!」


するとこの様子を見ていた先ほどの一人が、


「あ、先輩。俺そういうの得意だから代わっても良いですよ」


と申し出てくれた。


「え、本当?いいの?」


「ええ、だって記念の写真なんですよね。協力させて下さい」


頼もしい後輩である。こういう子がいればこの中学も安泰…って私は何を考えているのだろう。こんな感じで後輩が撮ってくれた写真は見事にフレームの中に全てが上手く入っていて、ボールが丁度飛び上がった瞬間を捉えたものになった。写真を見ると『画』の題材になりそうな構図である。


「わー、良いの撮れた!!!ありがとう!!」


先輩らしくなくはしゃいでいる裕子。でもなんか良いなと思った。その後、彼女と一緒に体育館の側で二人で写真を撮ったり、途中で見掛けた子達にピースしてもらったりした。この時気付いたのだが、今日は久しぶりに天気が良いというのもあるけど普段より外に出ている人が多いようだ。撮り溜まったところで休み時間が終りそうなる。


「じゃあもどっぺ」


「だね」


午後の授業はほとんど無いと言っても良かった。といっても受験のために自習だから私も真面目に勉強する。裕子は陸上の推薦で既に決まっていた。もし私が自分の希望する進学先に進めるとしたら裕子とは違う学校になる。卒業してもまた今日みたいに一緒に時間を過ごせるとは限らないのだとしたら、受験の事がなければ自分も裕子みたいにしているのかも知れない。




放課後、私は何となく美術室の前にやって来ていた。その壁には私が部員時代に描いた一枚の絵が今でも飾ってある。サッカーをしている人達を描いたもので、題材が良かったのか佳作を貰えて飾ってもらえる事になった。自信にもなったこの絵が私が卒業した後にも飾られるのだとしたら嬉しいような恥ずかしいようなそんな気持ちである。もしかして、お昼休みに写真を手伝ってくれたあの後輩も、この絵を見て何かを感じてくれるのだろうか?



そんな事を思いながら校門を出て、またあの場所に向かう。広々としていて、今にも夕日になりそうな光が射し込んできているグラウンドを少し高い位置から眺める。<この景色を見られるのももう…>


「この景色もあと少しで見られなくなるんだね」


自分の独り言と重なった声が聞こえたので驚いて後ろを見ると、そこには裕子が立っていた。グラウンドでは後輩達が一生懸命動き回っていたが、裕子はそういう光景を眺めているようだった。


「私も今そう考えてたんだよ」


「そうか。よっこいせ」


お昼休みと同じように彼女は隣に座った。


「毎日通ってた時は、大変だし、行きたくないって思った事も何回かあるけどさ、」


気が付くと私はしみじみと回想するように語り出していた。裕子はそれを静かに聞いている。私はそのまま思ったまま喋りつづけた。


「こういう時になってなんかさびしいなって思うのはさ、やっぱり気にいってたって事なのかな?」


「そうだと思うよ。なんか私は半々って感じ」


「半々?」


「このままもう少しここでみんなと過ごしたい気持ちと、高校行って頑張りたいって気持ちと…」


「あ~それ分る。なんか不思議だなぁ…やり残している事って無いんだけど」


「んだね~。そういえば美香ってF市の西高に行きたいんだっけ?」


「うん。美術科のある所を狙ってるというか、行きたいね」


「美香絵めっちゃ巧いからね」


「まだまだだよ。もっと勉強しなきゃ」


「美香なら大丈夫だよ!」


その時、ボールを金属のバットで打ち返したと思われる快い音がグラウンドに響き渡った。


「うん、なんか大丈夫そうな気がしてきた」


私の表情が良かったのか、裕子も満面の笑みを浮かべた。そして私達は私達がよく知っている『この中学校の毎日』を目に焼き付けるようにずっと眺めていた。
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

二人の管理人

Author:二人の管理人
ブログには珍しく二人の管理人で更新してゆくブログです。

二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
やってゆこうと思っています。




最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ただのカウンター
フリーエリア
投票
google+
プロフィール
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR