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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

二本松舞台小説 Uターン 3日目その1

暗く長いトンネルを歩いている夢の途中で目が覚めた。スマホに手を伸ばしブルーライトの明るさに目を細めながら今の時刻を確認する。朝7時13分。隣の布団では彼女が小さな寝息を立てている。

昨日は安達が原ふるさと村に行った後、二本松インター側のヨークベニマルで夕食の買い出しをした。今僕が住んでいる地域で幅を利かせている某スーパーと比べて、ここのヨークベニマルはなんとなく店内が狭い感じがする。しかし買い物客が狭い店内を縫うようにして行き交う様子は、人と人との交わりが一枚の布を織り成していくような、そんな暖かなイメージも生み出している。見知った相手と偶然出会い談笑する主婦。僕もまた懐かしい誰かに会えそうな、そんな期待に胸が躍る。
この地に住む人々の繋がり――それは自分が故郷を離れた身だからこそ感じるノスタルジーの一種なのかもしれない。でもこの暖かな布に包まれたような心地よさに、もう少し酔いしれていたいと感じた。
彼女は夕食にハンバーグを作るらしく、適当な副菜を加えた晩餐の材料を次々と買い物かごに入れる。僕は酒コーナーで「奥の松」の500ml瓶と発泡酒の6本ケースを手にした。「酒買う?」と彼女に聞くと「いい。ピングレ(ピンクグレープフルーツジュース)飲みたいな」と言われたので、僕はドリンクコーナーへ向かった。
その晩彼女の作ったハンバーグは、僕の両親にも好評だった。
母親にレシピを聞かれ恥ずかしそうに答える彼女の横顔を、僕は酒でやんわりと熱を帯び始めた目でぼんやり眺めていた。

彼女が目を覚まし、朝食をとって、身支度を済ませると10時30分になっていた。いつもながら出発の時間は予定より遅くなる傾向にある。
今日は岳温泉の方に行ってみようかと考えていた。
国道459号線をひたすら上っていく。辺りには田んぼと古い商店がぽつぽつ並び、更に上って行くと曲がりくねった山道になる。山道を抜けると温泉街が顔を出した。

岳2

「わぁ、よさそうな雰囲気だね」街並みをきょろきょろ眺めながら彼女が言う。
「ここはニコニコ共和国っていう独立国家なんだ」僕が自慢げに言う。
「えーうそでしょ」
「ほら、あそこに国会議事堂がある」

岳1

「わ、ほんとだ」彼女が目を丸くする。
「まぁそういう設定で宣伝してたって話なんだけど、面白いでしょ?」そう言うと彼女は大きく頷いた。
車は温泉街のメインストリートを更に登っていく。道は再び山道の様相を呈し、古いコンパクトカーのへにゃへにゃのサスペンションに揺られていると、突然目の前が開けた。

高原1

高原2

「ここはあだたら高原。スキー場もあるから冬はスキー客で賑わうよ」
「私スキー得意だよ」
「僕は出来ない……」
なら私が教えてあげてもいいですわよ、と言わんばかりのドヤ顔で僕を見る彼女を無視して、僕は車を降りた。彼女も慌てて後を追う。
2人で辺りを散策する。高原の清涼な風に乗って、緑の匂いとミンミンゼミの鳴き声がどこからともなく流れてくる。今僕の住んでいる地域はあまりミンミンゼミの鳴き声を聞かない。以前に気になって調べてみたところ、やはり今僕の住んでいる地域はミンミンゼミと比較しアブラゼミの比率が高いらしい。2種類のセミの鳴き声は僕の中に2つの夏を生み出している。異邦の土地で生活のために駆けずり回り知らぬ間に終わっていく夏と、家の軒下でアイスを食べながら午後の遊びの予定を考えている永遠に続きそうな夏。
ミンミンゼミは僕と故郷、今と過去を結びつける。

温泉街に戻り少し遅めの昼食にする。レストランで安達太良カレーなるご当地グルメを食していると、窓の外からなにやら拍手の音が聞こえた。道路を挟んだ向かい側の草原で、スーツやドレスを着た人々が手を叩いている。彼らの視線の先には白いドレスを着た女性と、彼女をエスコートするグレーのスーツの男性。
「結婚式だ」僕は向かいの建物が結婚式場を兼ねた施設である事に気付く。
「綺麗だね」純白のドレスを身に纏った新婦の姿に、彼女はうっとり見とれている。
カレーを食べる手を休め、しばし2人で見知らぬ夫婦の幸せの門出を見守った。
招待客が手に持った風船を空へと放つ。
風船はくっついたり離れたりしながら、夏の青空へと吸い込まれていく。
「夏の式は、暑そうだよね」何となく訪れたやわらかな沈黙のミルクにスプーンを落とすように、僕はぼそっと呟いた。
「秋か、春がいいよね」誓いのキスをする2人を見つめたまま、彼女は言った。


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二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
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