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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

雪が降ると

 その頃、某アイスクリームショップでアルバイトをしている僕は、天上から落下する絵の具の雫みたいな牡丹雪を自動ドアの窓越しに眺めていた。白い絵の具は他の色の混ざる事でそれらの色味を淡く変えるだけだが、今空から降り注いでいるこいつらは黒だろうが赤だろうが否応なしに白へと塗り替えてしまう。他の色との共存を許さない絶対的な白。こんな恐ろしいものが降り続けているのだから、客足が途絶えるのも当然の事だ。
「雪、すごいっすね」ショーケースの前に立った僕は独り言に見せかけて呟く。
「そうだね」思惑通り、隣に立つ雪子さんが答えを返してくれた。
「客来ないっすね」それに気を良くした僕は、続けて彼女に語りかける。
「この雪じゃね」彼女の目もまた自動ドア越しの雪景色に向けられている。
 アイスクリームなんてものは単なる嗜好品なのだから、自動車でさえ三輪車ほどの速度で走る大雪の中をわざわざ買いに来る物好きなど居るはずもない。それに白くて冷たい物体にうんざりしている最中、同じ様な白くて冷たい物体にお金を出すわけもない。
 その結果、アイスクリームショップでアルバイトをしている僕たち2人は、こんなふうにぼんやりとドアの外を眺める他なくなる。
 雪が降ると好都合だな、と僕は心の中で思った。
 普段の喧騒の中ではゆっくり雪子さんと話すことも出来ない。しかし今の僕らは静寂が降り積もる小さい店舗の中で2人きり。これは天が授けてくれた僥倖だと思う。
 僕は彼女のメールアドレスを手に入れる事を今日の目標として設定した。
「冬樹くん、雪は好き?」雪子さんの方から会話を続けてくれた。これはいい兆候だ。
「ええ、好きですよ。そりゃあまりにいっぱい積もると雪かきが大変ですけど、雪が降らないとスノボにもいけないし、それに綺麗じゃないですか、雪って」雪の後に『子』をつけたつもりで、ちょっと格好をつけて、彼女の横顔を見ながら答えた。
「そうだよね」雪子さんは嬉しそうに笑う「ありがとう」
 え、何でそこで『ありがとう』なのだろうか。
 もしや僕の思考が、感情が、雪子さんに感じ取られてしまったのだろうか?
「うちの実家、山の方で雪に関する仕事をしているから――」雪子さんはそう続ける。なるほど、つまり彼女の実家はスキー場に隣接するロッジなんかを経営しているのだろう。そのため雪が降らないと集客が見込めず閑古鳥が鳴いてしまう。さっきの『ありがとう』は僕の『スノボにいけないし』の件に係る言葉なのだろう。
 ほっとしたが、どこか残念な気持ちにもなった。
「実家がスキー場関係の仕事なんですか?」会話を繋げるため、さっきの憶測を質問の形で繰り出してみる。
「え、あ、えーと、うん、まぁそんなかんじ」煮え切らない返事だった。
「けっこう説明し難い、複雑な業種なんですか?」
「ううん、やってることはシンプルだけど、業種っていうかショゾクっていうか――」
「え? 最後なんて言いました?」最後の一言が良く聞こえなかった。シュゾクって言ったような気がするけど、それはどんな仕事だろう。
「あ、うん、なんでもない」雪子さんはぶんぶんと首を振った。僕としては好奇心を擽られるのだが、誤魔化そうとする彼女から無理やり話を聞きだすのも失礼な気がして止めた。きっと何か事情があるのだろう。
「雪子さんは、雪が好きなんですか?」僕はさっきされたのと同じ質問で話題を逸らす。
「うん、大好き。雪が降ると元気が出てくる」
「普通は、雪が降ると除雪やらなんやらでへとへとになるものなんですけどね」僕は苦笑いを浮かべ、彼女も自分の発言が素っ頓狂だった事に気付いて照れたように笑った。
「あ、そろそろ外の雪かきをしなきゃだね」時計を見上げて雪子さんが言う。
「それなら僕が行きますよ」力仕事を率先して行って、男らしさをアピールしたかった。
「いや、いいよ。私やるよ。なんか店内が暑くてのぼせちゃいそうだから、外で少しクールダウンしたいし」彼女はそう言うとカウンターを抜け、自動ドアへ向かってさっさと歩き出していた。
「え、でも」僕は呼び止めようとする。暖房が効きすぎているなら設定温度を下げますし――しかし僕にとっては今の温度ですら肌寒いくらいなんだけど。
「それにほら、私雪好きだから」そう言って振り向いた彼女の頬が、自動ドアの外に広がる雪の色と同じ純白であることに気がついた。
僕は彼女がこのまま雪と同化しまうような、そんな妄想めいた、しかし夢の壁を蹴破り現に片足を突っ込んだような想像が頭を過ぎり、一瞬ひどい目眩を覚えた。
スノーダンプを持った彼女が嬉々とした足取りで自動ドアを抜ける。
その後姿を見ながら、僕は「まあいいか」と呟いた。
雪かきから帰ってきた雪子さんを精一杯ねぎらって、次の雪かきは僕が行くことにすれば、一応は男らしさのアピールに繋がるだろう。
今日のバイトはまだ始まったばかりだ。午後のシフトが出勤するまで2人きり。
時間は十分にある。
ほんと、雪に感謝だ。
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