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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

裏・浦島太郎(『浦島記 大幅改訂版』)

今は昔。
浦島なる者ありけり。
産まれも育ちも丹後の国。
…何?『丹後』を知らぬとな?無学な現代の日本人達に特別に教えて進ぜよう。丹後の国とは、現代のお前達の地名で言うならば、京都府の北部である。
私の名は語部伝造(かたりべ でんぞう)。
遥々神界より遣わされ、様々な逸話や神話、正しき歴史を現代人に語り継ぐ者なり。よくよく覚えておくがいい。

さてさて…浦島太郎の件である。
神界の住人である私にとっては、この世の森羅万象全てが手に取るように分かっている。
私の上司である神が、お主ら人間界で長年言い伝えられてきた『浦島太郎』の内容を偶然にも耳に挟んだのだが、あまりにも事実とかけ離れていることに愕然とされていた。まこと…風聞ほどアテにならぬものはない。伝えられるべき真実が長い年月によって誤植・歪曲され、誤った話がさも当然の如く現代にまで言い伝えられている。実に嘆かわしいことだ。神は心優しき御方である。本来であれば神界は、このような雑事には対応しないことが申し渡し事項として決定されているのだが、今回お主ら日本人にだけは特別に私を通して真実を教授して進ぜよう、とのことだ。感謝するのだぞ。

さて…。
今は昔。
丹後の国に、浦島という者ありけり。
年の項は、24,5歳といったところか。当時の日本国民の平均寿命はおよそ50歳である。この事実から考えるに、人生の折り返し地点に辿りついた位の年齢であっただろう。年齢自体は若者の域を出てはいないがな。まったく、現代の日本人は幸せ者よ。医療とやらの発達により、平均寿命を大きく伸ばしてその命を永らえることに成功しておるのだからな。もっとも、寿命が長いことが幸せとは限らんな。人間、どの位長く生きたのかということよりも、限られた人生において何を成したか…といったことが最も重要なのだ。よく覚えておくようにな。

おお、少し話がずれてしまっていたな、失敬。
浦島は丹後の国にある小さな漁村で漁師をしておった。当時は何も産業らしいものなどありはせぬ。お主らでいうところの第一次産業とやら、つまりは農業や林業、漁業などが主な仕事であっただろうな。
まぁ、ともかく浦島は小さな漁村で漁師をしながら、年老いた両親を養っており、ある日釣りに出かけたそうだ。これが運命の分かれ道であった。釣りを始めてから、小一時間ほど経っただろうか。浦島は大きな海亀を釣り上げた。しかし、心優しいこの若者は、
『どれほど大きい魚かと期待して釣り上げたが…。そうか、亀だったか。“亀は万年”と言うのに、ここで捕まえて殺してしまうのは可哀想だ。もう人間に釣られるんじゃないよ。』
と逃がしてあげた。亀の喰い方、調理の仕方が浦島には分からなかったのもあったのかもしれない。とにかく浦島は亀を助けた。
その日の漁獲量は決して満足がいくものではなかった。しかし、その心はどこか充足感があった。腹は満たされなかったのかもしれないが、亀を助けたことで言い知れぬ高揚がその身を包み、浦島の気を良くさせた。捕えた魚は全て両親に与え、その日は何も口にしなかった。
因みに浦島は独り身であった。当時、この年齢で独り身ということは、まぁこちらで察しなければならない事情があったのだろう。性格はともかく、本人に何か問題があったのか、同じ村の中に妙齢の相手がいなかったのか、家が貧しすぎたのか、それを詮索するのは酷というものだ。小さい漁村であったらしいから、恐らく夫婦になるに適した相手がいなかったのだろう、そう思いたい。

その後、浦島は変わらない日常を送っていた。
毎日毎日海に出ては、両親のために漁を行っていた。その日はいつもより漁の調子も良く、比較的大きめな魚が仕掛けた釣針に次々とかかっていた。食物連鎖と言ってしまえばそれまでだが、捕まった魚の方はもうすぐ尽きるであろう己の命の行く末を案じていただろうな。
『今日は、父と母に沢山魚を食わせてあげることが出来そうだ。』
浦島は、漁の調子がよくなり始めてからそう思っていた。そして、結果そうなった。浦島自身も久々に腹一杯に食し、その魚を明日以降の活力へと換えることが出来た。

しかし、そう考えていた矢先に海面を打つ波が心なしか大きく動き出した。
目の前の光景が途端に光で溢れ、今まで目にしていた海がまるで生き物のような感覚に陥った。
単に、日の光が水面に反射しているわけではないようだ。自分が置かれている状況を把握できていない浦島に対し、更に驚くことが起きた。
いつから目の前にいたのか、1匹の海亀が海面からその顔を出し、こちらを見ている。
浦島は最初、その亀を数日前に助けていたことをすっかり忘れていた。『後から恩返しがあればいいな』といった、下心を全く持たず助けていたのもあり、本当に浦島はその亀のことを忘れていた。

驚くことに、亀は言葉を発した。
人間界の礼儀は心得ているようで、まずは先日助けてくれたお礼からその言葉は始まった。
その言葉を聞き、浦島はようやくこの亀が先日助けた亀であることを知った。
『…初めまして…ではございませんね。先日あなたに助けて頂いた亀でございます。その節は誠にありがとうございました。恐らく他の人間に釣りあげられていましたら、私は今頃この世の者となっていないでしょう。本日は助けて頂いたお礼がしたく、あなたの前に姿を現しました。』
浦島は、容易にこの事態を呑み込めていない。
当然だ。亀が人間の言葉を発しているからだ。
『…えっと…いや、当然のことをしたまでです。そんなお礼なんて言われるようなことではないので…。』
『いえいえ、今時あなたのような方は本当に珍しいですよ。人間は自分勝手な生き物だとばかり思っていましたが、あなたのような方もいるのですね。 人が人を思いやることは本来普通のことであるはずなのに、それができていないのが実情です。まぁ、生憎私は人ではなく亀なわけですが。』
『と、とにかく…お礼なんていりませんよ。私は両親にこの魚を届けなくてはいけないので、そろそろ失礼します。もう漁師になど捕まらないように気を付けて下さいね、それでは。』
浦島は何となくこの亀にきな臭さを感じ、その場を辞した。この時の浦島の気持ちはよく理解できる。亀が人間の言葉を発するはずがないのだ。それが、目の前に現れた亀は悠々と浦島と同じ言葉を喋り、あろうことか先日助けたお礼をしたいと申し出た始末だ。すわ、新手の詐欺ではないかと慎重な性格の浦島が疑うのも無理はない。ここで助けた亀の言うことを、全て受け入れる方がよほど無理がある。浦島のどこか警戒した様子に、亀は少しも察した様子も見せず、
『そうですか。ご両親の元に行かれるのでしたら、あまり無理強いはできませんね。またお会いした際には、お礼をさせて頂きます。それでは、また…。』
そう言うと、亀は突然浦島の元からそれこそ消えるように去って行った。浦島の目の前に残ったのは、今も瞼に焼き付いている、こそばゆいような光の残骸と多少の波のざわめきであった。
『これはきっと夢だろう。また会う機会など…あろうはずもない。』

それからまた数日が経った。
あの不思議な出来事(もっとも、浦島自身は夢だったと思い込んでいる)以降、浦島家の生活は上向きだした。
朝起きたら玄関に金銀財宝があったとか、そのようなどこかあからさまなハイソ化ではないのだが、どうもあの日を境に魚の漁獲量が増えてきているようだ。これは浦島が後に知ることなのだが、浦島が漁に出た際に、命の恩人が釣り糸を垂らしている方向へ魚達を誘導させていたのである。勿論、この時の浦島はそれを知る由もない。
その日も、浦島の漁獲量は好調であった。漁を終えて家に向かって帰る頃に、ふと思う所があったため近くの浜辺を歩いていた。この日の浜辺はいつも以上に村の子供たちが騒ぎ、遊ぶ声で賑やかであった。漁師とは厳しい職業である。皆が寝ている時間に起き、まだ辺りの夜が明けきらないうちから、暑い日も寒い日もひたすら魚と向き合う。現代でいうところのサラリーマンなどとは違い、決して一定の収入が約束されているわけではない。浦島はその日の漁獲量には満足をしていたものの、これからの自分の将来や両親のことなどについて漠然とした不安を抱いていた。そういった気分に陥ってしまった時、浦島は大抵この浜辺に来て、なんともやりようのない気分を抱きながら海と向き合うのを常としていた。浦島自身、この物思いにふけることに至る内容には毎回悩みながらも、その行為自体についてはどこか嫌いになれないでいた。
しかし、そんな悩み多き浦島に対し、今日ばかりはいつも以上に子供たちの声が耳に障る。
ふと目を子供たちの方へ移すと、果たして1匹の海亀が村の子供たちにより殴る、蹴るの暴行を受けているではないか。また、亀か。その思いが無かったわけではない。しかし、まさかあの時の亀ではあるまい、とも浦島は思い、『つくづく亀に縁のある人生になったものだ』とぼやきつつも本来の情け深さが作用し、非行の対象物の救済を図ることとした。
『君達、何をしているんだい?無闇に生き物をいじめてはいけないよ。』
元来、根が素直な村の子供たちである。浦島とその子たちが顔見知りであることも大きかったのかもしれない。村の中で、特に親孝行で知られる浦島は子供たちの中でも尊敬の対象であった。その浦島が子供たちの暴行から海亀を救うことに対して異論など出ようはずもない。子供たちは素直に浦島の言を聞き入れ、別の遊びに興じることとしたらしく、やがて浜辺から去って行った。残されたのは浦島と海亀であり、懸念した通りその海亀はやはり先日助けた亀そのものであった。
『重ね重ね御礼を申し上げねばなりますまい。再びあなた様に助けられようとは。誠にありがとうございます。』
『いや、当然のことをしたまでだよ。気にしないでください。もう村の子供たちもあなたのことを叩いたり、蹴ったりはしないでしょうが、十分気を付けてください。』
『はい、ありがとうございます。やはりあなた様は命の恩人です。約束を果たさせて頂きます。今度こそ…今度こそお礼をさせてくださいませんか。』
もうここまで来ると、一種腐れ縁のようなものである。浦島自身も、浜辺であれこれ悩み陰鬱な気分を抱えながら両親の元へ帰るよりも、人(亀)助けをした後のある種の清々しい気分を持って家路に着きたいと考え、亀の御礼とやらを受けることにした。『つくづく亀に縁のある人生になったものだ』。

助けた亀は、単なる亀ではないらしい。
助けた亀が言うには…彼(彼女?)は、海底に広がる深海国の従者であるらしい。
『らしい』というのは、どうにも亀の言うことについて現実感が無く、浦島はどうにもその一連の話を信じきれない。流石にここまで来れば、後世で言うところの『新手の詐欺』の類ではないのであろうが、この話をどこまで信じて見た者か、判断に悩む浦島であった。そして更に浦島を悩ませたのは、どうもこれからその深海国とやらに招かれるらしいということだ。呼吸が出来ないのにどうして深海まで行けようか…。当然抱くべき疑問である。しかし、それも亀の話を信じるならば、手渡された丸薬を飲めば呼吸の 心配ないらしい。しかし、どうにもふんぎりがつかない。そんな浦島に亀は、実に粘り強く説得を続ける。
『よろしいですか?我々深海国の住人(亀?)をはじめ、八百万の魚類たちがなぜ海中にて自由にその身を動かし、且つ呼吸が保つかお分かりですか?それは我々がこの丸薬を飲んでいるからなのです。あなた方人間と我々の差はたったそれだけ。それだけなのです。ですからあなたもこの丸薬を飲めば海中で呼吸が出来るようになります。ご安心下さい。』
厳密に言うと、魚が水中で呼吸をする方法はメカニズムが全く異なり、現代社会ではそのことが証明されてもいるのだが敢えて触れないこととする。とにかく亀は、それっぽい答えを用意することでどうにか浦島を納得したかっただけなのだ。そして生まれながらに純粋一徹の浦島もその話を信じてしまい、目の前に出された丸薬を口に含むことで亀と共に海中へ身を投じることを決意したのである。
『なるほど、だから魚たちは水中にあれだけ長い時間いることが出来るのか。』
亀は多少の両親の呵責にさいなまれたが、とにかく浦島にお礼がしたかった。
こうして、浦島と亀は海中へとその姿を消した。

いくら漁師であっても、浦島にとって海中の景色は言語を絶するものであった。
深海と聞くと、暗く冷たい雰囲気を抱きがちであるが、浦島が飲んだ丸薬はその景色をも一変させる作用を併せ持つらしく、暖かみのある雰囲気が亀の恩人を迎える海へと様変わりしていた。
『なんと絶景か。海中とはかくも華麗なものであったのか。桃源郷のごとき眺めだ。』
その極めつけが、深海に築かれた宮殿であった。
膨大なる敷地に、燃えるような朱色に塗られた鳥居が門前にそびえ立ち、そこから館までのアプローチのなんと長いことか。館自体も決して膨大な敷地に負けることない大きさで、現代社会でいうところの建蔽率などいざ知らずの出来である。これだけ巨大で、かつ華麗な建物を浦島はついぞ見たことがない。噂に聞く京の都にある、帝のすまいでさえもこの宮殿には決して敵うまい。浦島の住む家に至っては何軒分がこの敷地内に入るのか見当もつかず、ただただ目の前の光景に言葉を失うのみであった。
『このような館に住むお方はさぞ立派な御仁であろう。やはり、深海国にも帝のようなお方が存在するのでしょうか?』
『…いえ、この館…竜宮城には主人というべき方が存在しません。ただ象徴としてのみこの竜宮は存在し、1,000年の長きに渡り今に至るのです。』
『なんと…このような屋敷に誰も主人たる御仁がいないとは…。私も今はさもない漁師をしているが、いつかこのような堂々とした家を持ちたいものです。』
悩みを忘れるために、海に入り亀の謝礼を受け取るつもりだった浦島であるが、半ば現実に戻されてしまったようだ。しかし、亀は浦島が思ってもいないようなことを口にした。
『あなたさえ良ければ、この竜宮の主となってくださいませんか?勿論私が考えている御礼とは別です。言うなればこれは要請…といったことでありまして。あなたのような慈悲深きお方に住んで頂ければ、私を始めとする深海国の従者や八百万の魚たちも満足するはずです。』
『お気持ちはありがたいのですが…私には年老いた父と母がおります。ここに住むわけにはいきません。』
『それでは、父上と母上にも丸薬を飲んで頂き、ここに共に住んで頂けばよろしいではないですか。』
『いえ…父と母は今ある家を動こうとはしないでしょう。貧しいながらも先祖代々受け継いできた土地と家です。その話には決して乗りますまい。』
『そうですか。まぁ、この館に住むといった話は一旦置いておくとして…今はただ助けて頂いたお礼をさせて下さい。』
それから浦島を待っていたのは、見たことのない豪華絢爛たる美味・珍味であった。加えて、擬人化した魚達による舞やあまたの如く繰り出される荘厳かつ今にも心踊るような舞曲。浦島がその一生をかけても味わえないもてなしの数々が幾日も繰り返された。
人間の感覚とはかくも難しきものである。あれだけ親孝行の精神を持っていた浦島であったが、気付けば3年もの時を、海中で…憧れた宮殿で…この生活を繰り返した。しかし、誰もこの時の浦島を責めるようなことは我々には出来まい。仮に我々が浦島と同じ生活を送った場合、そうならないという保証はどこにも無いし、極めて高い確率で同じ道を辿るであろうことは乳飲み子でさえも分かりそうなものである。
さもありなん。
むべあるかな。
浦島は、自らが置かれた状況に全く気付かないわけではなかった。しかし、この物語の主人公の心の奥底に眠っていた忌まわしき感情がここに来て覚醒し、浦島を海底に留め置かせた。
『子は両親を選べない。なぜ、私はこうも貧しいのか。人柄としては少しも憎むべき箇所は無いが、あの両親の元へ生を受けたばかりに今の私の境遇は存在する。仮に、このような宮殿に住まう御仁の元に産まれてさえいれば私の障害はまた別のものになったであろうに。』重ねて言うが、我々に浦島を責める資格はない。自らの身に置き換えた場合、浦島と同じ感情を抱くことは仕方のないことである。飽食の時代に産まれ、着る物にも住まう所にも困らない現代に生きる我々にとっては理解しにくい箇所もあるやもしれんが、貧しさとは人本来の慈悲深き感情をも蝕む。いくら親孝行者として知られる浦島とて人の子。ただ、それだけのことだ。故に我々は浦島を責めることは出来ない。

結論から言えば、浦島は深海国の主となった。
年老いた両親を捨てた…と言っていい。

そして、名を乙姫と名乗った。
この浦島が、お主らが知るところの乙姫…というわけだ。
冒頭でも述べた通り、人の風聞ほどアテにならぬものはない。浦島はやがて若い男性を自らの宮殿、つまりこの竜宮城に招き、手土産として玉手箱なる物を与えるのだ。乙姫となっても、浦島は結婚というものへの憧れを捨てきれなかったのだろうな。亀が何度も人間に捕まり、いじめられる点だけは我にも解せぬ。学習能力が無いといえばそれまでだが、もしかしたら若い男性を連れ込むための口実として、亀にわざと人間に捕まるよう命じていたのかもしれぬな。人間らしい、女人としての業がまだ残っていたと見える。

以上が、浦島太郎の真実である。



この『裏・浦島太郎(『浦島記 大幅改訂版』)は、私Oがまだ若かりし大学生時代に書いた、黒歴史とも言うべき『浦島記』を極めて大幅に加筆修正したものであります。日本語がおかしい個所があるかもしれませんが、もし発見しましたらご指摘下さい。
いやー疲れた。
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