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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

『森の熊さん』

旅を続ける2人の旅人がいた。
性別はともに男。
一方はヨハン、もう一方はアルメロというありふれた名を持っていた。
2人の年齢は青年期に突入して何年か経っているので、いい大人と言って差し支えなかったが、特定の職業には就くようなことはしておらず、今流行の『自分探しの旅』などにうつつをぬかし、諸国を漫然と回っていた。

11月のある日。
2人はある大きな森の中の道を歩いていた。
森の入り口には『熊出没、注意!』と、注意を促す旨の内容が書かれた看板が立ててあったのだが、勿論自分探しに夢中なこの二人の視界には入ってなどいなかった。自分探しの終点がまるでこの森にあるかのような錯覚に陥りながら、二人は勇んでこの地へ足を踏み入れたのだった。

森に入り、一時間ほど経っただろうか。
二人の目の前の草木がガサガサと不意に動いたのだった。
すわ、小動物か?はたまたウサギやキツネ、タヌキの類であれば捕えて、近所の子供達に見せびらかして自慢してみせよう…などと二人の若者は思い立った。真の冒険者であれば、森の中で仮にウサギやキツネ、タヌキが目の前に現れた場合捕えて食料にしたり毛皮を剥ぎ取るなどの試みを行うはずなのであるが、そこは今流行の『自分探しの旅』であるから、若者達の頭にはそんなチャレンジャー精神は微塵も存在しない。

しかし、彼らの予想は見事に外れた。黒い大きな塊がのっそりと姿を現し、こちらの様子を伺っているようだった。
果たして、彼らの目の前に現れたのは、この森で一番出会いたくない相手…熊であった。

『…く、熊だ…』
『…お、おい…どうするんだよ…熊が出るなんて聞いてないぞ…』
(改めて言う、森の入り口に看板は立っていた。)

熊は見るからに食料を求めているようだった。
それもそのはず。今は11月。
冬眠を前にした熊は、この時期に過食をすることで食い溜めし、あらかじめ体内に脂肪を備えておくのだ。この冬眠前の食事こそが彼らのロングバケーションを支える重要なルーティンであり、儀式とまで言っても過言ではない。彼ら熊はここで何かを食わなければ冬を越すことは出来ない。そのため、この時期は食料を求めた熊が人里に降り、人間に危害を加えるといったケースも多発している。
それもこれも昨今の我々人間の食糧事情が必要以上に豊かになり過ぎ、飽食の時代へ片足を突っ込みかけていることも関係していると考えられているのだが、物語の進行を遮ることに繋がるのでここでは詳しくは触れない。

話を戻す。
現れた熊は、クマ界でジュンという名を持っていた。
先ほども述べたように、この時期の熊は冬眠に備えて食料を必要としているのだが、ジュンもその例外ではない。種族の存続という脈々と己らの遺伝子に記録され続けてきたこのルーティンに対して、ジュンもまた本能のままに従うだけであった。ここで食料を求めねば、この冬を超すことがその分難しくなるジュンにとって、目の前に存在する二つ肉塊はただ怯えるだけの、それでいて十分な栄養を持つ魅力的なものであった。

2人の若者のうち、1人(ヨハン)はすくみかけた足を立て直した様子で、彼らのすぐ近くにあった大木によじ登ることにより自分が熊の餌食になることからの回避を図った。
本人からすれば木に登れば大丈夫だ、と思ったに違いない。ジュンはそれよりも大きな木をへし折ったこともあったので、よほどその木を倒して登った男を喰らってやろうかと思ったが、空腹の上に少々面倒なので止めにした。
ふと視線を戻すと、ジュンの目の前にはもう1人の男がいた。見るからに逃げ遅れた様子で、どうやらこの男は、先ほど木に登った男に見捨てられたようだ。全く同情をしないわけでもなかったが、その哀れな男は急に立ち上がりそこから仰向けにバッタリと己の身を倒した。

『なるほど。これが人間が時折我々熊に見せる秘技・死んだフリか。』
ジュンは実際に目の当たりにした『死んだフリ』に少々の感動を覚え、ひとしきり逡巡した。
倒れる前に男が見せた、絶望と後悔、そして裏切られたことに対しての悲哀に満ちた表情がひどく印象に残った。しかし、ジュンは食欲という本能に逆らうことが出来ず、やはり人間を喰うことにした。そして己の口を目の前の自称・死体の首筋に近づけた。



パタパタ…。
アルメロは体を起こし、服や手足に着いた草や土、枯葉を落としていた。
登っていた木から降りてきたヨハンも、心配そうな顔をしながらアルメロに近づいてきた。
『危なかったな、アルメロ。心配したよ。怪我はないかい?』
『あぁ…。』
アルメロから帰ってきた返事には気力がこもっていなかった。
ヨハンはその返事の力の無さを、友人が九死に一生を得た事態を未だ呑み込めていないからであろうと解釈した。
『しかし、熊はてっきりお前の首を噛みきるものだと思ったんだけど、途中で帰ってしまったな。』
『あぁ…咄嗟に死んだフリをしてみたまでは良かったんだけど、それでも熊が近付いてきて、息遣いまで聞こえてきたからもうダメかと思ったよ。』
『でも、あの熊はお前に何か話しかけているような感じだったな。俺たちの前途が余りにも明るそうだから見逃してくれたのかもな、「今回は見逃してやるよ」的な?ははは…』
ヨハンは元気の無いアルメロを励まそうと茶化したつもりだったが、それはどうやら本当のことであったらしい。勿論、彼ら2人の前途を見越して熊が見逃した…ということに対してではなくアルメロの耳元で何か話しかけたことについて…である。
『あぁ、あの熊は言ってたよ。』
『へぇ、何を?「アイルビーバック」ってか?ははは…』
『ん~…惜しいね、それ。「危ない時に友人を見捨てて、自分だけ逃げるような薄情な相手とはもう別れた方がいい」って言ったのさ。』
『へぇ…最近の熊は随分親切というか…お節介なんだな。でもその熊の言葉がどうして惜しいわけ?』
『本当に親切な熊だよ。俺の命を助けてくれたばかりか、友人との付き合い方も教えてくれたんだからな。』
アルメロはそう言うと、すかさず先程までヨハンが避難していた木に飛びつき、高さにして5メートルほど登ったところからこう言った。
『…後ろ、見てみな。』
ヨハンがふと後ろを振り返ると同時に黒い影が襲いかかった。

~ イソップ物語 『熊と旅人』より ~
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コメント
熊さんは人を食うようだ
 人を食った話です。しかし最近リアルイソップ物語がおきてしまいまして洒落になりませんわ。とは言え熊にしてみれば自然の摂理に従っただけの事。おなかがすけば食う。たまたま獲物が二本足で歩く動物だった。うーむ。
 人間は自然に対してもう少し謙虚にならないといけないのかもしれません。亡くなった方には気の毒ですが、本当に痛い目どころではすみませんね。
2016/06/15(水) 23:08 | URL | miss.key #eRuZ.D2c[ 編集]
Re: 熊さんは人を食うようだ
どうも管理人Hです。管理人Oの作品で、着眼点が面白く仕上がっている作品だと思います。ところで我々の地元である福島県も今月は熊がかなり出没しているようで、場所によっては警戒が必要だとか。人を食うというのが比喩でなくてダイレクトな意味になってしまうとさすがに人類としても冷や汗がでてくるような話ですが、そうですねもともと熊はそういう存在なのかも知れません。


可愛らしくデフォルメされた熊もありますが、イソップ物語の頃にはそんな風には見ていなかったんでしょうね。改めて振り返るべき作品なのかも知れません。
2016/06/17(金) 17:22 | URL | 二人の管理人 #-[ 編集]
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