FC2ブログ

スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

『心臓のゆくえ』

『苦しい…』
病に苦しんでいるのは百獣の王ライオンのアーサーであった。
病気になり、その鈍った手や足を地面に投げ出しながら、アーサーはただ臥せっていた。その衰えた風貌に、かつての王者の風格は少しも見当たらない。

八百万の獣たちに恐れられているアーサーであったが、彼にはたった一人だけ友と呼べる者がいた。
極めて狡猾な頭脳を持つ、狐のネストである。この物好きな友人に対して、かつて王者だった男は息も絶え絶え言葉を放つ。
『おい、物好きな狐よ。余に生き永らえてほしいと思っているのか?思っているのであればお前に一つ頼みがある。南に三里ほど進んだ所にある、無駄にごつい松の木は知っているか?』
『えぇ、まぁなんとなく分かりますがね。』
『…分かるか。ではそなたに命じる。そのごつい松の木の下に、こんもりした藪があるのだが、そこに余の好物の鹿が棲んでいる。余は今、そいつが喰いたくてたまらない。しかし、もはや追いかける体力も気力も尽きかけようとしている。』
『そりゃまぁ残念なことで。』
狐は終始、気の無い返事に終始している。
狡賢いネストはこの後、アーサーからどんな依頼が来るのか大方の予想をつけており、その面倒さに辟易しているのだ。
『おい、聞いているのか?狡狐。もし、お前がその気になってくれるのであれば、きっとあの鹿はお前の甘言に搦めとられて余の手元に飛び込んでくるであろう。よし、行くのだ。』

狡狐は早速出かけることにした。
『なんで俺がこんなことをしなければいかんのだ。王め、最後の晩餐のつもりか?』
ひとりごちながら王の棲家より南へ三里進むと、アーサーの言う通り大きな(王の言葉を借りると“無駄にゴツい”)松の気がそびえ立っていた。
『ここか。さて、この近くに“こんもりした藪”があるはずだが…、おぉあれか。首尾よく今回の標的もいるようだ。』

王と狡狐の恐ろしい計画をまだ知らない無邪気な鹿は、藪木立の和草の上で跳ねていた。
それから、正に“虎の威を借る狐”ならぬ“獅子の威を借る狐”を目視した哀れな被害者は、あくまでも狐ではなくネストの背後にある権力に敬意を払い、深々とお辞儀をした。
『こんにちは、ネストさん。』
『おぉ、ここにおられたか、ルイスさん。』
鹿の名はルイスといった。
『ルイスさん、今日はね、めでたい話をあなたに伝えにきたんですよ。』
『めでたい…話ですか?なんでしょう?』
『あなたもご存じの通り、百獣の王たるアーサーは私の大事な友人であるが、近頃病に臥せっており、ここだけの話であるが…お迎えもそう遠くない時期へと差し迫っている。そこで、誰が次の王になるのが最も良いのか、病と闘いながら常々腐心しておられる。』
『まさかそれほどまでに病状が進んでいたとは…。残念なことです。それで、王は次に誰をご指名なのですか?』
『そこなのですよ。王は本当に悩まれた。例えば、腕っぷしだけで考えるならば後継者と目される者たちはそれこそ吐いて捨てるほどいる。しかし、王たる者、その腕っぷしだけではその重責を全うすることはできない。例えば、イノシシは間抜であるし、熊はノロマときたものだ。豹は極めて気が短いし、虎は法螺吹きで孤立している。』

ルイスは答える。
『では、あなたがいるではないですか。王とも近い身分であり、頭も良い。』
『いやいや、私はただ狡賢いだけが取り柄の卑賤なる者に過ぎない。それと、一つ忠告しておくが、頭が良いことと賢いというのは、違うのですよ。まぁ、そんな話はさておき…実はですね、王はあなたこそが王にふさわしいとお考えなのです。』
『私ですか?ご冗談を。何故です?』
『王が申されるには、鹿の姿がまず誇らしい、とのことです。また、長寿である、とも。それに鹿の持つ角はあらゆる蛇類の恐れるところであり、木々に似ており、牛のそれとは訳が違う。これ以上に何を言う必要がありますか?もう王の承認は得ております。あなたは次世代の王です。いやいや、私は王にならなくても結構なのです。新王・ルイス様、あなたが正式に即位された際に、この私のことさえ思い出して頂ければそれで十分。このめでたいお話を最初に持ってきたのが他ならぬこのネストなのですからね。』
どうやら狐が言うには、次の王は鹿のルイスであるらしい。そのことを恩着せがましく述べると、あなたもアーサーの死に目に会えるよう、なるべく早く彼に会いに行った方が良い…と言い、そそくさと立ち去って行った。

純粋な鹿のルイスはこの作り話をすっかりと信じ込んでしまった。
のぼせ上ってしまったと言ってもいいだろう。
ルイスは一寸先に待っている恐ろしい企みが己を待っているとも知らずに、王の棲家へと足を運んだ。
『アーサー王、私をお呼びでしょうか。』
『おお、わが後継者ルイスよ。そなたが来るのを今や遅しと、首を長くして待っていたぞ。王という重責を引き継ぐに当たり、そなたに伝えなければならないことがある。もっと近くに来てはくれぬか?』

結果から言うと、ことは失敗に終わった。
後継者の件は確かに作り話であったが、王の病だけは事実である。
耳寄りな話が聞けると思い近寄った鹿に対し、王は闇雲に寝床から襲いかかったのだが、病の身が災いしたのか、爪の先で獲物の耳を千切っただけで終わってしまった。
ここで鹿はこの一連の話が全て仕組まれたことだと悟った。
すっかり肝を潰してしまった鹿は、傷を負いながらも戸口から森の中まで一目散に逃げ帰ってしまった。
物陰から見守っていた狐はため息をつくしかなかった。
困ったのは王である。
飢えと無念、両者同時に責められ、その唇を噛みつつ嘆いたが、もう一度狐に声をかけると鹿を捕える新たな策を考え出してくれと頼んだ。
『もうすっかり鹿は警戒を強めています。難しい言いつけですが、なんとかお力になりましょう。』
狐はその狡猾な頭脳から知恵を絞りだし、答えた。

狐は賢い犬さながらに、鹿の足跡を辿って行った。
悪知恵のありったけを絞り出しながら、道行く全ての者に『傷を負った鹿が逃げて行かなかったか?』と尋ね続けた。
かの者らも王の権力を笠に着た狐を恐れたため、総じて鹿の逃げた先を教えた。
その結果、遂にネストは走り疲れて木陰で一息入れている哀れな鹿のルイスを見つけた。
眉も額も厚顔無恥で出来ている狐の顔がそこにはあった。
戦慄が鹿の前身に走り、ルイスは怒りで心臓が煮えたぎらせながら言い放った。
『憎々しい狡狐め、これ以上近寄るな。この後も私を騙そうとするならば、お前を痛めつけてくれる。今回の後継者の話には、他の動物を推薦するがいい。私はもうあんな目に遭うのは沢山だ。』
しかし、ネストはへこたれずにこう言った。
『次世代の王よ、あなたはそんなに卑しく、怖がりだったのですか。そんなにも私を疑るのですか。アーサーはあなたに耳寄りな忠告をしようとして、これまでのあなたのボンヤリさを目覚ませようとして、耳に触っただけなのですよ。臨終の間際に臨む…それこそ父親のように。百獣の頂点という絶大な支配権を握った暁に、どのように己を守れば良いのか、要諦を残らずあなたの耳に入れようとしたのです。あなたは病に蝕まれたライオンの弱々しい手で耳をかすられただけで、少しも我慢ができなかった。無理に身を引き離したから、かえって怪我が大きくなってしまったのです。今はあなた以上に王がお怒りですよ。鹿など軽率で、全く信用できない。このままでは狼を王にするしかない、とのことです。ああ、ひどい主人になりますね。どうしましょう…。われわれ皆の不幸は、卑しく臆病な、あなたのせいです。さあ、いらっしゃい。これからは毅然として下さい。群れから離れた羊みたいにおどおどしないように。あらゆる木の葉と泉にかけて誓言しますが、私があなただけに仕えるようになることを望んでいるように、ライオンも何ら敵意はなく、好意からあなたを百獣の王にしようとしているのですよ。』

このようにネストはルイスを甘言で説きつけ、哀れな純粋者を先刻と同じ死の家に再び入って行かせた。王・アーサーはねぐらの奥に引きこもると、盛大なご馳走を独り占めした。肉にかぶりつき、骨の髄をすすり、その内臓まで余すことなく貪った。その間、獲物を連れて来た狡狐は、腹を空かせたまま突っ立ていたのだが、つい先ほどまでルイスのものであった心臓が落ちていたのをこっそり奪い、その場で飲み込んだ。これが今回の大いなる苦労の役得であった。

食中、ライオンは鹿の内臓を一つずつ数えてみたが、心臓だけがどうしても見当たらない。そのため、一面血の海になった寝床中を捜しまわった。しかし、それでも心臓だけが見当たらない。
すると、狡狐は真実をごまかしながら
『初めから無かったのです、探しても無駄だと思いますよ。有りもしない甘言に乗せられ、ライオンの家に二度も入ってきた奴にどんな心があったでしょうか。』と心の無い言葉を放った。
アーサーは最後にこう言い放ちながら狡狐にも襲いかかった。
『お前の方が十分心無い輩ではないか。』と。

~ イソップ物語 第336『ライオンと狐と鹿』より ~
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

二人の管理人

Author:二人の管理人
ブログには珍しく二人の管理人で更新してゆくブログです。

二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
やってゆこうと思っています。




最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ただのカウンター
フリーエリア
投票
google+
プロフィール
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR