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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

二本松舞台小説 Uターン 1日目

真夜中の東北自動車を二本松インターで下りた。
急なカーブで減速し料金所を抜けると、正面には国道4号線へ通じる上り坂が見える。左手にはデニーズの明かりが、地上の月みたいに辺りを照らしている。宇宙船が孤独な宇宙空間を進むように、車通りの少ない真夜中の磐越道を抜けた末に見るこの明かりは、3時間の運転で研ぎ澄まされた神経の刺を優しく抜き去ってくれる。
これは人の営みの明かりだ。
この町は僕がいない間も、こうして営みを続けている。
「なんもないところだね」と彼女は言う。
「何も無いがある」僕はお決まりの文句で返す。
インターを降りてすぐの交差点を右に曲がり、ちょっとした贅沢のお決まりとなっていた回転寿司屋や、以前はおもちゃ屋だったリサイクルショップを眺めながら車を走らせる。
「あれ、こんなところにコンビニあったんだ」
セブンイレブンに車を停める。僕がコーヒーを手に取ると、お茶のペットボトルを手にした彼女が右手を伸ばした。コーヒーを手渡すとそのままレジへと向かう。彼女の出したカードがピロンと鳴った。
「コーヒー、どうも」
「それ、ポイント3倍の商品だから、ポイント貯まるしね。カード持ってないでしょ?」
「うん」
「もったいない」
車に乗り込みエンジンをかける。
「これから何処行くの?」
「んー、ちょっと母校を眺めてから実家に向かう」
次の交差点を右に曲がり、高速沿いの道を走る。アップダウンの激しいこの道を、子供の頃は「ジェットコースターだ」なんて言ってはしゃいでいた。今はそんなふうには思えない。ただの退屈な一本道だ。
「急に、実家に帰るとか言い出したからびっくりしたよ」彼女は言う「私は何とか休み取れたけど、君は大丈夫だったの?」
「仕事? 仕事は辞めた」
「は?」
彼女の唖然とした空気が助手席から伝わる。車は母校へ向かう上り坂へと差し掛かった。腹の中に重い沈黙を詰め込んだコンパクトカーが、やけに軽いエンジン音だけを響かせながら、木々に囲まれた一本道を登っていく。
「一つ言っていい?」彼女がボソッと口を開く。
「なに?」
「私に、相談くらいしてよ。辛かったなら、言ってよ」
「ごめん」
車は山を登りきった。
山頂に似つかわしくない大きな建物がそこにそびえている。
手前のグラウンド付近の路肩に車を停めて、僕と彼女は車を降りた。さっき買ったコーヒーのプルタブを開け口に含む。下の奥にこびり付くような微かな酸味を含んだ苦味。
当然の事だがこの時間帯に校舎の電気はついていない。宿直の先生はいるのだろうが、恐らくここからは見えない職員室の辺りにいるのだろう。
「こんな山の上まで毎日通ったんだ」
「かなりきつかった」僕は校門の辺りまでとぼとぼと歩く「でもゲームやりたさに毎日走って帰ってたら、長距離の成績が飛躍的に伸びた」
「はぁ、意味わかんないよ」彼女はあきれる。
「この校門見るとさ」僕は校門から校舎の生徒用玄関を眺めた「GLAYのHOWEVERを思い出す。学校祭のテーマソングだったんだ」
学生服を着た僕が、玄関から駆け出してくる。
グラウンドの砂の混じった風の匂いと、運動部の喧騒。秋が近づくにつれどんどん高く、広くなっていく空と、それを赤く染める夕日。
学生服を着た僕は、何かに呼ばれたかのように立ち止まり、校舎を見返す。
いい事ばかりの学生時代ではなかった。
でも、今思うと全てが輝いていた。
HOWEVERが聞こえる。
「なぁ」僕は校舎を見つめながら、隣で退屈そうにしている彼女に呼びかける。
「なに?」
「結婚してくれ」
「は?」
「だめ?」
「・・・」
「だめなの?」
「ダメっていうか、なんでこのタイミング?」
「いや、色々思い出してたら、感情が高ぶってしまって」
「そういうノリで言っちゃう言葉なんだ」
「ごめん」
僕は踵を返し、道路沿いのガードレールから夜の町を眺めた。
この町は広い。こんな小高い山くらいじゃ全然見渡せないほどに広くて、僕も知らない事がまだまだたくさん隠れている。
「こっちに帰って、仕事を探そうと思う」僕はため息を吐くように言葉を繋ぎ、そして息を吸い込むと少しの決心の後に続ける「だから君には、これからの数日間で、この町を好きになって欲しい」
彼女もまた同じように夜の町を眺めている。
その表情は見えない。
しかし彼女は頷いているような気がした。
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二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
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