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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

6月のある日

「求めよ、さらば与えられん」と誰かに言われた気がした。去年の梅雨入り前のこの季節の出来事がふと脳裏に浮かび、詳細を思い起こすためにSNS上に残していた記録を読んでいた時の事だ。幸運な事に、これまで出会いの少なかった人生で今の彼女と知り合えた通り雨のあの日の午後。彼女の顔を見たその瞬間の事はとても印象に残っているけれど、付き合うようになって他愛もないやり取りをする日々で当初の新鮮な感覚に溢れている短い報告を読んでいると、少し照れくさくなってしまう。非公開のDMで初々しいメッセージのやり取りがあって、そこから発展してゆくなんて事があり得たんだから不思議なものである。



求めさえすれば与えられる。そんな当たり前のようで含蓄に富む言葉の意味をかみしめるように今日もまた新たなメッセージを送信する。


『そうだね。そろそろ出会って一年になるね。今思うとドラマでよくあるシーンだったよね』


帰ってきた彼女のメッセージにもあるように、突然の雨で商店街の店の軒先に慌てて雨宿りをしていてたまたま居合わせた二人という、ベタすぎてもうドラマでは使われないんじゃないかと思ってしまうような出会い方をしたのだ。俺はクールビズスタイルで、彼女はここら辺ではちょっと目立つ着こなしのカジュアルな出で立ちで。


『地元の人じゃないオーラが出てたよ。どっか都会の人って感じだった』


そんな返信をしながら、実際にこの時俺が「降ってきちゃいましたね」と声を掛けてみた反応を思い返す。女性が「こっちってもう梅雨入りしてたんですか?」と不思議そうに訊ねてきた時にはまだ彼女がこちらに越してきたばかりで、その時駅前を散策していたとは想像もしてなかった。あり得る話ではあったけれど、ここよりもはるかに都会からそういう若い人が来ていると知った時には、


「へぇ~凄いですね…」


という声が漏れたくらい。その時彼女がボソッと、


「全然凄くないですよ…」


とちょっと神妙な具合に呟いたのが俺には物凄く気になってしまったのだ。


『あの時、『俺がこの町を案内しましょうか?』ってカっちゃんが言ってくれた時、実はかなり嬉しかった』


これを友人に話すと「完全に惚気話じゃねーか」って言われるのだが、確かに俺は、俺にしてはかなり好青年っぷりを発揮して親切に軒先で彼女に「地元民は知っておきたい知識」をペラペラと喋っていた。例えば商店街の中でも一際有名な美味なラーメン屋さんの事とか、少し離れてはいるけれど観光名所になっている地元のシンボルともいえる『城跡』の事とそれにまつわる歴史とか、はてまた2体のゆるキャラとか、ご当地ヒーローの事とか…。



で、幸いな事に彼女もゆるキャラとかそういうのが結構のが好きな人で、つーかこっちが引いてしま「ミーハー」な部分もある人で、途中からは彼女の質問攻めに合い、スマホで色んな写真を見せられているうちに雨も上がっていたというそういう話で。で別れ際に、


「もしほんとうに…案内していただけるなら、私のSNSのアカウントでよければ教えますけど…」


とちょっと迷いながら言ってくれたお陰で俺は彼女のアカウントをネットで発見して、若干放置気味だった自分のアカウントを掘り起こしてフォローできたのだ。その辺りは現代的だなと思うけれど、全体的によくこういう風に発展したものだと我ながら感心する。


『でさ、それはいいんだけど本当にカっちゃんって天然記念物みたいな人だなって思ったよ』


良い気分に浸っていたその時に届いたメッセージはどこか不穏なものが漂っているように感じた。


『え…?なんか変だった?』


何の事かわからないまま訊き返すと、


『文章で説明すると凄く面倒だから、ちょっと待ってて』


と返ってきた。<物凄い長文が来るかもな>なんてしばらく待ちぼうけていると、不意に家のインターフォンが鳴り響く。「え…もしかして」と思って玄関に出向くと、


「話がしたくなったから来ちゃったよ。驚かせちゃった?」



彼女が立っている。



「あ、そういうパターンもあるのね」


思わずこぼれ出た感想に対して彼女がニヤニヤしながら、


「やっぱり天然なところがありますな。車だと7分くらいだから気付いても良さそうなのに」


と云う。



「それが天然記念物みたいな人って事?」


「まあ、ちょっと上がらせてよ」


「あ、うん。どうぞ」



そんな風にして特に何をするでもなく先ほどの続きを語り合う二人。


「天然記念物っていうのはね、今どき珍しいくらいにピュアっていうか、奥手っていうか…とにかくアプローチを全然してこないって事だよ。私も流石に出会って半年過ぎても進展なしだった時は脈無しかなって疑いはじめたよ…松田聖子の代表曲かって…」


言われてみると、出会ったあの日に既に心奪われている部分があったにも関わらず、俺は主にSNS上で彼女に対して粛々と地元民おすすめスポットを紹介し続けていた。時折リアルで会って出掛けるくらい仲良くなっていても、何故だか交遊を目的にするのは不純な気がして彼女が地元に溶けこむ手伝いをするのが主目的だと思っていた。しどろもどろになりながら彼女にそんな感じの事を伝えると「ふう」と少し溜息をついて、


「私も人の事を言えた義理じゃないんだけどさ、好意を伝えることはさ、別に自然な事なんじゃないかって思うの」


「確かに」


「こう、もっと求めていいんだと思うよ。付き合ってる今でも思う事だけど、もっと私に要求してきても…」


やや際どい発言をする彼女にヒヤヒヤしつつも、尤もだなと思う自分。と思ったら、



「でもありがとう」


と彼女が唐突に言った。


「え…?」


「あの日、色々不慣れだったから私『この町に溶けこめるかな』ってちょっと不安になったんだ。そういう意味ではあの時雨が降ってくれて本当に良かった」


彼女は目を細めて嬉しそうに語る。そこで何か気の利いたことを言えればいいんだろうなと思うのだが、


「そういえばあの時は答えられなかったけど、こっちはまだこの時期梅雨入りしてないんだよな」


と照れ隠しのような事を言ってしまう。けれど意外にも彼女は目を大きく見張って、


「え…?そうなの?」


という具合に驚いている。


「うん。あれは通り雨だね。結構スコールが激しいんだよ」


なんて説明している矢先遠くで雷がゴロゴロと鳴り始めた。


「あらあら…今年もカっちゃんの隣で雨宿りになりそう…」


何だか色々あったけれど、その一言でこれはこれでいい話なのかもなと思ったりした。
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二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
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