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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

麗しき人の夢 ⑮

夜8時の待ち合わせ。そこそこ通い慣れたバイパス沿いのカラオケ店に入店し、店内を眺めてまだKが来ていない事を確認する。フロントにある待機所に一旦座ってスマホを立ち上げる。

「お、来てる来てる」


ここに来るまでにDMにて連絡が入っていたようで、そこには『今来た、何処にいる?』とあった。すぐ外に出てそれらしき人影がないか探すと、向こうから歩いてくるシルエットが。


「おっす」


「おう、久しぶり」


考えてみると学生時代から慣れた光景である。確か高校時代にもこうして待ち合わせていたような気がする。当時の田舎の学生にとってもこの店は文化の中心であり得たのだ。再会の喜びと、これからの事に自然と胸が弾んでくる。Kの表情を観るからに同じ気分であるのは間違いないだろう。


「じゃあ、フロント行くか」


そう言ってフロントで店員さんに要望を告げてすんなり入室に至る。機種が幾つかあるけれど、すぐ入室できるものを選んだので必然的に部屋も限定されたところになる。


「なんだかワクワクすっぞ!」


ドリンクバー用のグラスを受け取ったKがおどけた様子で言った。やはり友人Oの時も同じだが、再会すると青春時代の自分に戻ってしまうような気がする。良い夜になりそうだと思った。


「よし、じゃあ俺から歌わせてもらうよ」


実を言えばカラオケは大好きな人間である同士。入室すると話もそこそこにタブレットで盛り上げられそうな曲を選択し発信する。近年ドはまりして自分の創作でも登場させているあるバンドの曲のイントロが流れると、


「お、これ歌うんだ!!」


と驚いた様子のK。それほど知られていないアーティストなので紹介するつもりで入力したのだが、そういえばKは高校時代から弾き語りなどをやっていた音楽通。そう思うと自分もなんだか自信が出てくる。私は立ちあがる。


「桜の季節過ぎたら 遠くの町に行くのかい♪」


小気味よいリズムで所々ボーカルの歌い方を意識して歌ってゆくと、Kも身体を揺らしてリズムを取ってくれている。最初の曲にしてはかなり熱唱気味に歌っていると、時折画面のテロップに括弧で出てくるコーラスの部分をマイクなしで歌う声が聞こえてくる。



自分としてはよく歌えたと思う。曲が終わって「おー」と言ってくれた友人は、


「やっぱ〇〇の歌は良いなぁ!気持ちが良い!!」


と褒めてくれる。なんだか身内に褒められているようなこっぱずかしさがあるような無いような感じだが、私も続いて表示された辛うじて知っているマイナー曲が気になってくる。私と同じように立ちあがってKはあの当時と同じような良く響く彼らしい声で難しい曲を綺麗に歌い上げてゆく。


<ああ、そうだ。こういう声だった…>



普段はあまり意識しないけれど「声」というのは、その人の事を十分に表現している何かというか個性が顕れるものであるような気がする。この時に全身に響いてくるそのどこか温かみがあって、どこか強いメッセージのある歌声に忘れている何かが蘇ってくるようである。紛れもなく、我々はこうして今再会しているんだなという実感が湧き上がってきた。


『生きてて良かった』



曲中のサビで繰り返されるこのフレーズをまるで私との再会を心から喜んでくれているような、そんな気持ちで聴き入っていた。熱唱が終わり、惜しみない拍手を送った。


「いやぁ、良いなぁ。こういうの。ほんと…」


心の底から嬉しそうな声でしみじみと言ってくれるK。


「俺も同じ気分だよ」


もっとこういう気持ちを感じたくてどんどん曲を選択してゆく。時に切ない曲、時にエネルギッシュな曲、色々織り交ぜながら自分の出来る最高のパフォーマンスを彼の前では見せれていたような気がする。勿論、積もる話もあったけれど、お互いにこの時に聞かせたかったのだろう曲を歌って行った。



年齢的なもので少し時間が経って一旦勢いが落ち着いてきたところで友人Oを含めた最近のDMでのやり取りについて言及してみる。


「なんだか不思議な感じだよな。三人でまだ繋がれてるって結構珍しいと思うよ」


「だよな~。ほんと誘ってもらって良かった。俺もさ仕事の事で色々あるけどさ…」


そう今日は友人の仕事に関係した事で、こちらに戻って来れるという事情があったついでに集まれることになったのだ。今は何もかも忘れるように時間を共有しているけれど、やはりお互いに色々な悩みを抱えて生きている。学生気分とはまた違った「大人」としての話をこうして話せるのも何となく特別だなと思った。



そんな話をしながらほんのり明るい個室という空間を改めて見回す。この妙に落ち着いた気分は何処から来るのだろうか、隣室から時々響いてくる歌声もその場の雰囲気を作りだしている。その雰囲気に導かれ、ついつい饒舌になって相手に受け入れて貰えているような気持ちになってしまう。



話が一段落したところでまた歌い出す。それを繰り返していると気が付けばもう天辺を過ぎていた。この歳になってこういう経験も珍しくなってきたが、両名ともまだ体力的には大丈夫そうだった。ところで、私はまだ肝心な話をしていないなと感じていた。ちょうど休みに入ったところでこう切り出す。


「そういえばさ、お互いに創作やってるじゃん。俺も最近ちょっとモチベーションを維持するのは大変なんだけどさ、君のも読ませてもらってまた頑張ろうって感じになってる」


Kも同じことを話したかったらしい。


「うん。俺も今書いてるシリーズで、弾き語りのサークルの話を気楽に始めたつもりだったんだけど、段々終らせるのが勿体なく感じ始めてさ…」



「ああ、それはあるな。っていうか俺の生活の中心がだんだん創作に寄ってきてるのを感じる。何だかんだで自分の作品の続きを書けるのは自分しか居ないって当たり前の事が、段々重要になってきた気がする」



「そうだよな。いやさ、仕事の事が忙しくて時間が取れないのが悩みなんだけど、でも作品が気持ちを代弁してくれているっていうかさ…」


その時私はKの作中のある表現を思い出した。


「ほら、君の作品で先輩が『俺達は音楽を通して語り合う』って言ってたじゃん。あれ良い言葉だなって思って」


この頃、私はその言葉が決して誇張ではなくその通りに生きているアーティストもいるんじゃないかと思いはじめていた。それは例えば我々が作品を通じて『会話』しているように感じるのと同じように。


「え?そうか」


Kは意外そうな顔をしている。あまり意識して書いたことではなかったらしい。


「うん、でも確かにそうかも知れないよな。こうやってお互いに歌う事で何かを伝え合ってんのかもな…」


ここで私は「じゃあ」と思い、その作品のテーマに沿えるようなあるバンドの曲を実際に歌ってみることで伝えてみたらどうなるか試してみる事にした。


「この曲がね、多分君の作品に合うんだと思うよ」


そう一言添えて、流れてきた演奏にじっと耳を澄ませて雰囲気を感じ取ってゆく私。


「花が開いて~♪」


その曲は昨年再結成した私の大好きなバンドがかなり前に発表した歌だった。『青春』を終わらせないように、あの『青春』は幻じゃないんだ、そう本気で伝えようとするその歌詞とメロディーに時折感情移入しながら、確かめながら歌ってゆく。恥ずかしながら自分でも感極まるように歌ってしまったなと思ってKの方を見遣ると、


「うわ…俺いまめっちゃ感動してるわ…」


とまるで衝撃を受けたようになっていた。後で彼が書いたものを読んで、彼が自分で感じている事と重なるようなその曲とその状況がまさに心を振わせるものだった、その時感じていたと知って私は確かに伝えたい事が曲を通して伝えられているんじゃないかと思えている。



結局その日はその余韻に浸りたいという気持になったのでそこで終る事にした。Kがこちらに戻ってくればこう言う風に更に言えばOも交えて集まれる事も多くなるかも知れないが、やはり別れというのはいつもどこか寂しいものである。


「じゃあまたな」


「うん」


言葉少なに別れる。帰路に就きながら、自分で歌ったあの曲の歌詞が今更ながら自分にも響いてくるのを感じていた。それこそ途切れ途切れに「夢」を追い続けようとしているかも知れない今の自分は、今見えているものが『幻じゃない』と自分でも願いたくなっている。それこそ一人では追い続けることも難しいのかも知れない。けれど、今またこうして自分の中に湧き上がってきた事を作品にして、そしてその行く末を見届けようとしているこの感覚は、『夢』という言葉の奥深さを語るようなそんな何かであるように思える。


頼りなく…それでいて力強く。
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