FC2ブログ

スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

柔らかな光

それはコロコロとした気持ち。ふざけているようで真面目で、それとなく言うようでとっても心を込めて言うという。何故だろう、その時僕は出ない涙にも流れた跡があると思えた。戻らない日々を想う時も、必死に前を向く瞬間も、ただダラッと続く毎日もきっと何かの意味はあるのだと思うのだ。ありきたりで、誰もがそうで、やっぱり難しくて。でもそれだけでもなくて。


「〇〇君、今何だか良い表情してるね」


学生時代の先輩が優しげな眼差しを向けてくれている。当時から趣味で絵を描いている人で、新しい絵が仕上がったからと言って今日は家に呼んでくれた。


「そうですかね?いつもこんな感じですよ」


僕はわざとらしく首を斜めに捻って答える。もしかしたら同性の友人よりも素直な心で向き合える先輩で大学の頃のちょっと苦しかった時期も、社会人になって目標を見失いつつあった時もまるで出来の悪い弟にするように一緒に悩んでくれたり、彼女なりのメッセージを込めた絵を見せてくれて、その度に僕は何かを感じてまた歩き出せていたような気がする。


「うん、確かにそうかもね。でもなんか、すっきりした表情だよ」


多分そうなのだと思う。先輩は敢えて言葉にはしないけれど、あの人が去ってしまってからの僕を見守ってくれていたからこその言葉なのだろう。もっと感慨深く浸る事も出来るけれど、やっぱり今はこの人に向き合いたいなと心から思う。


「そういえば先輩、誰か良い人見つかりましたか?いくら地元の景色が好きだからって言っても、いい加減に人付き合いの幅を広げないと本当に見つかりませんよ」


ちょっとイジワルをするように半分心配するように言うと、


「わたしには猫がいるよ。それに、こう見えてもわたしはモテるんだよ」


と妙に自信をもって答えられた。実際言葉通りな部分があるから本当に不思議な人である。テーブルの上のティーカップを口に持っていって紅茶を少し啜った先輩はどこか遠くを見つめるように、ちょっと悩ましげな表情でこんな風に言う。


「自分が面倒くさい人間だって事は承知しているよ。何よりも作品を仕上げるのが本当に好きでさ、そのくせそれで真剣に勝負してみようなんて気持ちになれないんだ。本当に今のわたしはそれだけ…」


『それだけ…』と云うその言葉にはどこか憂いの響きがあったように思える。でも、何かを納得させるように一度「うん」と頷くとまたこちらをじっと見つめ始めた。


「俺、こうやって先輩にいつも相談に乗ってもらったり勇気づけてもらいますけど、先輩も時々弱気になりますよね。そういう時は頼りない姉を持った気分になります」


「そうね。〇〇君も普段は弟みたいだけど、イジワルする時はまるで…」


その時、言葉の続きを躊躇っているかのようだった先輩。


「まるで…?」


「う~んと、何だろうね。ふふふ」


何となくだけれど誤魔化されたような気もする。


「考えてみれば俺達の関係も何だか変ですよね」


「そう?普通じゃないの?」


「いや、「普通」だって思う事が既にして普通じゃないという…そんな変な関係だと思いますよ」


「別に清い関係だから良いんじゃない?もしその関係に具体的な名前が欲しかったら…」


「欲しかったら?」


「『アーティストとその作品のファン』っていうのは?」


「あ~言われてみればそれもそうですね。結構しっくりくるかも」


思わず頷いてしまった僕。すると先輩は慌てて、


「え…待って!わたし今冗談で言ったんだけど…」


と言った。その表情に思わず笑ってしまう僕。何てことのない先輩とのやり取りだけれどその一つ一つで大切な時間が刻まれてゆくのを感じる。しばらく僕をじっと見ていた先輩が、


「あ…わたし新しい絵のテーマ決まった!」


と突然何かを思いついたらしい。


「え…?どんなのですか?」


「『秘密』」


「えぇ…教えてくれてもいいじゃないですかぁ」


と僕が愚痴ると先輩がかぶりを振って、


「ううん。ちがくて、テーマが『秘密』っていう事をテーマにしようと思って」


一瞬何を言っているのか分らなかったけれど少し考えて理解する。


「あ、え?そういう事ですか。どういうじゃあどういう「秘密」なんですか?」


「それは秘密」


今度は悪戯っぽく笑った先輩。思わず吹き出してしまったけれど、僕はその意図が何となく分かるような気がした。多分先輩は作品でそれを伝えてくれるのではないだろうか。これまでもそうしてくれていたように。僕はそしてそれを楽しみにこれからの日々を過ごしてゆくんだろうなって思う。


「じゃあ楽しみですね」


「そう?」


意外そうな顔のその向こうの窓から射し込んで来る優しげな光の下に猫が佇んでいる。その時感じた僕の気持ちも秘密にしたいような、伝えたいようなそんなものだったかも知れない。冬の季節らしい柔らかな光だった。
スポンサーサイト
コメント
コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する
プロフィール

二人の管理人

Author:二人の管理人
ブログには珍しく二人の管理人で更新してゆくブログです。

二本松のこと、競馬のこと、これから手探りで何かを
やってゆこうと思っています。




最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
ただのカウンター
フリーエリア
投票
google+
プロフィール
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR