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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

あの時の「それ」

あの時のそれは「それ」でしかないけれど。


ずっと昔の話。ただ幼かった僕は、でもそれなりに物思いに耽る時間があったように思える。天真爛漫に明るいだけのその根っこにある、誰とも共有できない密かな孤独をあの頃は当時あまり飲めなかった濃い炭酸ジュースのように時々「味わって」いたような気がする。時々自分が何者か分らなくなるような感覚で友達とサッカーをしてテレビゲームをして…


それは自分にしては妙に憂いているある秋の事だった。憂いているといっても中身はしょうもない事で、近所の遊び場でちょっとした問題が生じた為に行きにくくなっていたのと、買ってもらったゲームをその時ほとんどクリアしてしまってする事が勉強くらいしか無くなってたのである。習い事もそこそこあった小学生の頃だったし先生達がしきりに「高学年になったら」と言うようになってきて、自分にとって得体の知れない年上の人のように自分もなってゆくんだと考えた時、少し不安になったのだと今では思う。



それでも何とかいつものテンションで乗り切った学校帰り、友達が用事があって学校に居残りするという事で僕はいつもと違う帰り道をとぼとぼ…というかぼんやり歩いていた。今でもそうだけれど知らない道を通っていると自分の知らない世界に行けそうな気がして道に迷う怖さもあったけれど、その日はそれでもいいのかなと思っていた。



本当に一瞬迷いにそうになりかけた時交差点でちょっと立ち止まって、


<今来た道を戻っていけばいいんだけど>


と冷静に考えた。でも何だかそう思ってしまっている自分が頼りなく思えた。もしかしたらただ同じ道を『戻る』という手間がいやだったのかも知れない。とにかく僕は躊躇いを振り切るかのように知らない道を進み始めた。


<だってどこかに出れるはずだし>


頭の中で拙い理論であり常識でありながら、漠然と歩いていればいずれどこか知っている道に出てゆくはずだと信じていた僕は、歩いているうちに目まぐるしく移り変わってゆく光景を必至に目に焼き付けながらまっすぐ進む。だんだん自分の意識が狭くなってゆくのを感じた。町はだんだん知らない顔をするようになっていって僕はもう近くの事しか意識できない。途中、全身真っ白な猫が悠然と歩いているのを観て、少し見惚れているうちに、いよいよ完全に自分の居場所を見失ってしまった。



いつもなら不安になっていただろうけど、その時の僕は不思議と泣きそうな気持にはならなかった。勿論いつかみたいに迷子になって母親に心配されるのは嫌だったけれど、もうこのまま知らない場所でそのままどこか知らない町に行ってしまってもいいんじゃないか、そんな風に開き直ってしまいそうな具合だった。その時、正面から女の人が何か僕を気にするかのように近づいてくるのが見えた。


「あれ?〇〇君じゃない?」



僕はその時異様に驚いたのを覚えている。目の前に立っているのは多分「女子高生」だったのではないだろうか。それくらい身長差があって、しかも顔つきも大人びている。だからか今でも顔を良く覚えていないのだけれど、その人がとても嬉しそうな表情で微笑みかけてくれたのは覚えている。


「ほら、まえ〇〇で会ったよね。私、覚えてる?」


僕は誰かと勘違いしているんじゃないかとその時思った。でも、しっかり僕の名前を呼び、確かに以前行った場所の事をいう目の前の女性が知り合いでない筈はないという常識的な判断がその時働いて僕は、


「あ、うん」


と少し曖昧さがありながらも肯定した。実際その時の僕の記憶はいつもどこか曖昧で、あったような気もするしなかったような気もするという事が結構あった。もしかして忘れているだけなら相手に失礼だとも思ったのかも知れない。とにもかくにも女の人は、


「こっち側に住んでたんだ!!」


と陽気に笑いかけてくれる。


「うんと、今日はちょっと違う道を通って帰ってるの」


誤解されると何となく悪いなと思って僕は正直に答えた。そう言うと特に意外でもない顔をして、


「そうなんだ。〇〇君って何年生だっけ?」


と訊ねる。「4年生」と答えると、


「そっか、じゃあ来年から『お兄さん』だね!」


と言った。先生から言われるのとは違ってその「お兄さん」は不思議と優しい響きだった。もし彼女のいう「お兄さん」になったら、この目の前の人ともまた違う気持ちで向き合えるのかななんてことを子どもながらに思ったのも知れない。「そうだ」と言って、その人は僕にポケットに入っていた飴をくれた。



「知らない人からもらっちゃダメだって言うけど、私だったら大丈夫でしょ?」



ちょっと悪戯っぽく笑うその人の柔らかな声を聞いていると僕も魔法に掛かったように、「そういう感じ」で良いんだなと思えた。



「じゃあね」



別れ際僕は多分僅かに手を振ったような気がする。貰った飴にも勇気づけられて、僕はそのまま自力で見知った場所まで漕ぎつけて何とか帰路に就けた。今思うとその記憶が本当だったのかさえよく分からないのだけれど、その時食べた飴の味がマスカット味だったのを覚えている。




時代は下り、すっかり現在アラサーになった僕。さして波乱万丈でもない人生で、それでも時々『道』に迷う。あの時住んでいた場所からはいつともなく去ってしまい、あの後その女の人を一度どこかで見掛けたきりでそれがどんな人だったかも覚えていないかも知れない。



深々と降った雪が朝になってどっしりと積もっている庭。


<今日は出掛けられないかなぁ…>


などと思いつつテレビを見る。すると近くでガサッガサっと雪をスコップで掻いている音が聞こえ始めた。自分もやり始めた方が良いなと思って、ジャンパーを羽織り外に出てみるとなんとそこで雪かきをしていたのは小学生くらいの男の子だった。


「あれ、雪かきしてるの?」


びっくりしたのもあったけれど思わず声を掛けてしまった。しかも見た通りの事を訊ねている。


「あ、はい。ちょっとやってみたくて」


「偉いね。今日は量があるから大変だ」


そういって笑いかけると、男の子もなんだか嬉しそうに笑いかけてくれた。そのとき僕は「あっ」と思った。


「ちょっと待ってて!!」


僕は男の子に声を掛けると一旦家の中に戻った。あんまり嬉しい話ではないのだけれど僕は最近目が疲れ気味でブルーベリーに凝り出していて、たまたま家の中にブルーベリーの飴があったのを思い出したのである。それを少しばかりポケットに入れてまた外に出た。


「はい、これ。結構美味しいよ」



そういって僕はその子に飴を渡す。流石に近所の『お兄さん』…おじさんだから飴を貰っても大丈夫だろうという常識的な判断がまた働くのを感じた。男の子は嬉しそうに、


「ありがとうございます!」


と言ってくれた。雪かきが一段落してコタツに潜った僕はしみじみとあの時の事を思い出していた。結局僕は普通に『お兄さん』になったし、何かが変わるかなと思ったけれどあの時想像していたかのような全く見知らぬ存在になったとは思えない。


「でも」



と僕は一息をつきながら考える。あの時の飴は飴でしかないけれど、魔法の飴だったんだろうなって。そして同時にそれはあの時の「それ」だから、そうなったのだと。そして『お兄さん』の役目というのももしかしたらそんなものを渡せる存在になる事なのかも知れない…と今さらになって思うのだった。
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