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スローペースで、二人で出来る事を模索しながら。二本松、競馬、などなど。

同じ未来

その向こうに僕の見たいものがあるのだろうか。


新年を迎えて間もなく僕は何とも言えぬ気分に浸るように暮れかかる空を見上げていた。昔は年が改まるとみなで一斉に一つ歳を取ったと数える風習があったらしい。考えようによってはこの印象深い時に気分が改まるのだし、新しい始まりと捉えるのも自然なのかも知れない。漂う雲が黄色く色づき、その周りを少し黒みがかった雲が囲んでいる。どこか冴えない年明けで、時間の限り覚束なさのある小説を読みながら過ごしていると本当に今が今なのかよく分からなくなる。


ぼんやりしていると周りにとけこんでしまうようなそんな明り。すっかり緑が消えてしまった風景の中にところどころ疎らな色合いを見つけて、『求めていた未来はこんなものなのだろうか』などと思っても無いような、もしかしたらどこかで感じているのかも知れない言葉が浮かんでくる。


<その言葉は多分、僕のものじゃない>


そう言い聞かせるように少し意識的に動いて家の中に入る。中では炬燵とストーブで暖められた居間で家族が寛いでいる。例年のごとくこの部屋で食べるだけ食べて、飲めるだけ飲んでいた。久しぶりだというのにすっかり馴染んでしまう自分が居て、今さっきの憂いもここには似合わない。


「そろそろご飯だから手伝ってちょうだい」


母のきびきびした声が響く。それに頷いて台所に向かうと正月でもやはり忙しげな様子がある。そんな夕食はやや豪勢だった。テレビを見ながら変わらないのは向こうもそうだなと思ったりした。


<この人達が求めていた未来もこういうものだったのだろうか>


どこか冷めた目で、笑いの絶えない出演者たちを見守っている。きっと数日前収録されたその番組に綻びなどありはしないのだろう。危げなシーンがあったとしてもそれは滅多にお茶の間に現れる事はない。仕事を滞りなく進めるように、番組も滞りなく時間通り展開させようとする筈である。



あるタレントが年の初めの抱負を述べる。彼女の口から語られる近い未来の予定は「未来」を意識させない。何があるかは分からないとしても、凡そ分っている部分がある、だから合理的な「期待」が生じる。まかり間違ってもこのモデルから引き抜かれたであろう女性が年末に歌合戦の司会をやるという未来はどうも無いように思われるのは、言うなればあの舞台さえも既に着々と何かが準備されていると予感されるからである。人によっては出来レースというかも知れないし、それに値する「実績」を積んでいると判断するかも知れない。



なんにせよ、「順当」な未来があってそこを覆すのは難しい。その未来を昔自分が使っていた意味での「未来」と同じと言ってよいのだろうか?



「どうした?ぼーっとして」


「いや、ちょっと暑くなってきて…もうちょっと夜風に当たってくるわ」


「上着着ておいた方がいいぞ」



父に勧められてコートを羽織り、何も考えず外に出る。一面の暗闇。寒空の下、上空に輝いている月と星を見上げ、<やっぱり田舎の空は清んでるな>と思う。興が乗ってきたので近くを歩いてみようと思い、一度玄関から居間に向かって、


「ちょっと近くを歩いてくるから」


と告げる。坦々と、それでいて足を前に前にと意識するように1キロほど歩いたところで薄明るいオレンジ色に包まれた人気のない橋に至る。下にはこの辺りの平野を二分するような川が流れていて、何処となく見知った光景だなと思った。駅から反対側のこの辺りの道を歩いていたわけではないから見覚えがあるというのもおかしな話で、たぶんそれは自分が勝手に思い描いていたイメージに似ている場所だったのだろうと思う。


「この向こうには何にもない」


そう思うとそれ以上向こうには歩けないような気もする。その時僕はふと「何でも同じだな」と思った。この向こうに、未来に何もないと思ったら多分もう一生懸命には歩けない。夢らしい夢はいつの間にか目先のちょっとした物欲に変わってしまいがちで、でも実際にはそれで良くて、何も考えずその餌につられて歩かされていればいいのだろうと思う。世間や社会と足並みを揃え、同じ未来に向かって進んでゆく、その方が迷わない。



ただそれを望んでいるのかどうか。



ここに来たって答えが出るわけじゃない事は分っている。橋の欄干に身を委ねてしばし川を見つめる。静かな雰囲気は自分に合っているなと思う。それにしても開けている空間だ。電柱もないし、建物もないから遠くまで見渡せる。ふぅと息を吐いて、眼前に目一杯広がった空を見上げる。


「やっぱり月が綺麗だな…」



金星が近くに見える日だった。


「こ~のほ~し~ぞら~のし~たでぼ~くは…」


その時自然に浮かんだある曲のメロディーに乗せて口ずさんでみる。『同じ月』というその曲は坦々とした日常で、ふと夜空を見上げそこにあった月に何かを想うという様子を歌ったもので、場所は場所だけれど妙にしっくりくる曲だなと感じた。今も誰かと同じ月を見上げているんだなというそんな単純な事が、僕に一つのイメージを与える。


「同じような気持ちで月を見ている人もいるのかもな…」



そう思うとこんな言い表しようのない事も無駄ではないような気もしてくる。



「君はそれでいいのか?」



僕は誰かに問うてみたくなった。君は…僕はそれで…



「じゃあどないせぇっちゅうねん…」



まるでツッコミを入れるようにひっそりと呟いてみて、「ふっ」と笑う。わからない、でもまったく分からないでもない。分っている事はツッコミを入れたくなるほど面倒くさいだろうなという事。



挫けつつ、それでもまた何かを探す事。そんな毎日を続ける事。



宵の心細くも暖かな明りに僕は励まされているのかも知れない。そんな事を思いながら家路に就いた。
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